新規に取引を開始する場合には,相手に経済的な問題がないかは非常に気になるところです。また,実は相手が暴力団と関係のあるいわゆるフロント企業で,それを知らずに取引を開始したところ,思わぬトラブルに巻き込まれたケースもあります。取引をするにあたっては,少なくとも,事務所,工場への訪問や,商業登記簿謄本,不動産登記簿謄本のチェック等の調査は行うべきです。
当社は,これまで特に与信調査をすることなく,営業が開拓してきた取引先と取引を開始してきました。ところが,最近,知り合いの社長が,新規に取引を開始してすぐに支払いが滞り,そのまま倒産してしまい,多額の損害を受け,心配になりました。新規取引をするかどうかを決めるにあたっては,与信調査は必要なのでしょうか。
相手によっては,例えば,財務状況が悪化してこれまでの取引先から断られたために新規の仕入れ先を探しているようなケースもあります。極端ですが,取引を開始して一回も支払いをしないまま倒産をしてしまい,全く回収できなかった事例もあります。
他方で,与信調査をした結果,相手の経済的状況が悪化している兆候が見られたため取引を見合わせ,売掛金が焦げ付くリスクを回避できたケースもあります 。
会社の規模や取引額によって,どの程度の調査をするかは違ってくるでしょうが,何らかの与信調査は行うべきです。
与信調査としてはどのようなことをすればいいのでしょうか。
比較的簡単にできることとしては,例えば,
①会社の事務所や倉庫を訪問する,
②商業登記簿を取り寄せる,
③相手が不動産を持っていれば,不動産登記簿を取り寄せる等の調査が考えられます。
この他,取引額が大きい場合には,財務諸表を提出してもらったり,調査会社を利用する等慎重に調査をすることもあります。
会社の事務所や倉庫を訪問する際にはどのようなことに注意するのですか。
会社の規模から考えて在庫が多すぎたり,逆に少なすぎたりしないか等を見ます。また,財務状況が悪化している会社は,従業員が見切りを付けて退社したり,逆にリストラされたりしていることも多いため,会社の規模からすると従業員の数が少なかったり,雰囲気が悪い等の傾向もあります。
訪問の際に,社長や役員から会社の経歴や取引先等について聴き取りをすることも有益です。
商業登記簿から何が分かるのですか。
会社がいつ設立されたかが分かるので,実績が分かります。また,役員も記載されており,どんな人が役員になっているのかや,変動を知ることができます。例えば,役員が解任されたり,一度に交代しているであれば,会社内で内紛が起こっていることを窺わせますが,このような兆候は一般的には経営にとってマイナスの要因です。
不動産登記簿から何が分かるのですか。
担保が表示されていますので,相手がどんなところに債務を負っているのかが分かります。一般的には個人からの借入について担保が設定されていたりすると,注意が必要です。また,過去の競売申立や滞納処分がされたことがあればその記載も残りますので,そのような記載がないかも確認します。
不動産があるかどうかは,相手に聴き取りをする他,とりあえず,本店所在地,代表者住所地(商業登記簿に記載されています)の不動産登記簿謄本を確認してみるということが考えられます。
相手の経営状態に不安な兆候があった場合にはどうすればいいのでしょうか。
担保を求めることが考えられます。担保設定が難しい場合には,売掛金が回収できなかった場合に会社の経営に与える影響の大きさや,不安要素に対して相手がどのような説明をしているのか等も考慮して,取引をするかどうかを判断することになると思います。
フロント企業かどうかは,どうやって調査すればいいのですか。
事務所等を訪れて,従業員や出入りをしている人の言動をチェックしたり,商業登記簿を見て,役員の変動等に不自然な点がないか等を確認することが考えられます。この他,このような企業は,一般的に,最初は非常に有利な条件での取引を持ちかけてくるような傾向もあると指摘されています。
また,最近は,契約書の中に,相手がフロント企業であることが判明した場合には契約の解除ができるという,暴力団排除条項を設ける企業も増えています。