例えば、取引先に対する売掛金債権の担保として、その取引先が小売店等第三者に対して有する債権(売掛金等)に質権を設定したり、譲渡担保を設定することができます。しかし、将来的に発生する債権も含めて担保にするには、債権譲渡担保の方法によることとなります。

  取引先に対する売掛金債権回収を確実にするために、担保を設定しようと思うのですが、その取引先は、物的担保となるような資産は何も持ち合わせていません。ただ、小売店等第三者らに対して売掛金債権をはじめとする債権を持っているようなので、これらの債権を担保にとりたいと思うのですが、どのような方法があるのでしょうか?

  債権を担保にする方法としては、「債権質」や「債権譲渡担保」があります。

  「債権質」というのは、その名のとおり、債権を質に入れるものですが、債権質では、将来発生する債権を担保に含めることができないため、これを含めて担保の目的にする場合には、「債権譲渡担保」の方法があります。

  「債権譲渡担保」とは、どのようなものなのですか?

  まず、「譲渡担保」とは、担保の目的のために、目的物の権利(所有権)自体を債権者に譲渡するという制度で、不動産や、動産を目的物として利用される例はよく知られているところですが、「債権譲渡担保」とは、この譲渡担保を債権に設定するものです。すなわち、債務者(譲渡担保設定者、今回のケースで言えば取引先)が第三者に対して有する債権を目的物として譲渡担保を設定することになります。したがって、債務者が第三者に対して有する債権に譲渡担保を設定しても、債権者は、譲渡担保権を実行するまでは、第三者から弁済を受けることはできません。また、債権者が譲渡担保権を行使して優先弁済を得た後になお債権譲渡を受けた債権額に余剰があれば、債権者にはこれを債務者に精算する義務があります。債権の譲渡担保の場合、債務者の第三者に対する複数の債権を、将来発生する債権を含めて、集合的に譲渡担保の目的にすることが多いのですが、債務者が債権者に対して、約定通りの弁済を続けている限りは、債務者の第三者に対する債権の弁済期が到来しても、債権者が第三者から弁済を受けることはせず、弁済分は債務者の資金に環流し、その事業資金に流用されるという形が予定されているわけです。

  「債権の譲渡担保」は、どのような方式を踏んで行うのですか?

  「債権の譲渡担保」とはいっても、対外的には、債権譲渡に外ならないので、その方式も、債権譲渡の方法によらざるを得ません。すなわち、債権譲渡担保契約(債権譲渡契約)を締結し、右契約に基づき、譲渡担保権を実行する(債権譲渡を受ける)ことになります。

  なお、債権譲渡担保においては、先に述べたように、現在既に発生している債権のみならず、将来発生する複数の債権も一括して譲渡担保の目的とすることができるわけですが、この場合、目的債権の内容、額が譲渡担保契約時においては定まらず、変動するため、譲渡担保の目的に供しようとする債権の特定性如何によっては、譲渡担保契約が無効とされる危険があるため、その特定に留意する必要があります。
そこで、債権譲渡担保契約時に、
①譲渡の目的とされるべき債権の債務者(第三債務者)、
②譲渡の目的に供されるべき債権の限度額、
③譲渡契約上の権利行使をなすべき終期、
④債権の種類、等の限定によって、被譲渡担保権を特定しておくことが必要でしょう。

  ただ、債権者と債務者との契約だけでは、被譲渡債権の債務者(第三債務者)には、譲渡担保権の存在が分からず、債務者に弁済してしまうことになりますので、第三債務者に対し、被譲渡債権の債権者であることを主張しうるためには、原則として、譲渡担保権設定者(債権譲渡人)から、第三債務者への、譲渡担保権設定(ないし債権譲渡)をしたことの通知ないし、第三債務者の承諾が必要です。さらに、同じ債権を譲受けた債権者や、右債権の差押をした債権者がいる場合等には、単なる通知ないし承諾では足りず、右通知ないし承諾を確定日付ある証書(内容証明郵便での通知等)によってなさなければ、これら第三者に対しては、自己が債権者であることを主張できません。

  また、債務者が法人の場合は、上記の通知ないし承諾に代えて、登記所の債権譲渡ファイルに債権譲渡の登記(債権譲渡登記)をすることによって、第三債務者に対して自己が債権者であることを主張することができるようになります。