債権譲渡を債務者その他の第三者に対し対抗できるためには法定の要件を見備することが必要であり、また債権の譲渡人に対して有していた抗弁は債権の譲受人に対しても主張できます。

  私はAに建物改修工事を発注したのですが、工事は注文どおりなされておらず、Aと話し合いをしたところ、A社が不備な箇所をやり直すこととなっていました。
しかし、その後Aは夜逃げをしてしまい、全く連絡が取れなくなってしまいました。

  ところが、先日突然Aから建物改修工事代金債権を譲り受けたというBから工事代金をBに支払うよう請求を受けました。私は工事代金をBに支払わなければならないのでしょうか?

  まず、工事代金債権については、債権者は原則として自由に第三者に譲渡できます。

  もっとも、債権譲渡の手続については民法に規定があり、この手続を行わなければ債権の譲受人はあなたに対して自分が債権者であることを主張できません。具体的には、債権の譲渡人(本件ではA)が債務者(本件ではあなた)に対し、債権譲渡をすることを通知するか、もしくは債務者(本件ではあなた)が債権譲渡を承諾ことが必要です(民法467条1項)。これは、譲渡人からの通知や承諾を必要としないと、債務者には本当に債権譲渡がなされたかどうかわからず、結果的に譲渡人と譲受人とに二重に支払わなければならないおそれが生じるからです。

  したがって、Aが一方的に債権を譲り受けたと主張する場合はもちろん、例えばBがあなたに対し、BとAとの債権譲渡契約書等の書類を提示したとしても、民法に規定する債権譲渡の手続を行ったことにはならず、Bはあなたに対しBが工事代金債権を有していることを対抗できません。また、債権譲渡の通知をBがあなたに対して行っても効力は認められません。

  Aが私にBに工事代金を譲渡する事を通知していた場合、私はBに対して工事が不完全であり、代金は減額されるべきであることを主張できますか?

  あなたがその通知を受けるまでにAに主張できたことは、原則としてBに対しても主張できます(民法468条1項)。したがって、あなたはBに対しても、Aの施行した工事が不完全であり、代金は減額されるべきであることを主張できます。

  Bが私に、債権譲渡登記をしているとして、登記事項証明書を交付して債権譲渡を通知してきた場合、Bは私に工事代金の支払いを求めることができますか。また、私はBに対して、工事が不完全であり、代金は減額されるべきであることを主張できますか?

  債権譲渡登記とは、「動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律」に基づく登記です。債権譲受人が債権譲渡人に対して有する債権を保全するため、債権譲渡人が第三者に対して有する複数の債権を担保にとる場合(集合債権譲渡担保)などに多く利用されます。

  債権譲渡登記がされた場合、当該債権譲渡の事実及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことについて、債権の譲渡人(本件ではA)又は債権の譲受人(本件ではB)が、あなたに登記事項証明書を交付して通知したときは、あなたに対して債権譲渡登記時に民法通知があったものみなされます。

  すなわち、本件では、債権譲渡登記時に、あなたへの債権譲渡通知がなされたものとみなされ、Bはあなたに対して工事代金の支払いを求めることができます。 この場合も、Q2と同様、あなたに債権譲渡通知が実際に到達するまでにAに主張できたことは、原則として、Bに対しても主張できます。

  私はAに対して売掛金債権を有しているのですが、Bに債権譲渡された後にこの売掛金債権と工事代金債権を相殺することはできますか?

  工事代金債権については既に弁済期が到来していることを前提として回答しますと、これは、あなたが売掛金債権を取得した時期や、その弁済期がいつかによって結論が異なってきます。

  まず、あなたがAから債権譲渡の通知を受けた時に、売掛金債権を既に取得しており、その弁済期も到来している場合には、あなたはBに対して相殺を主張できます。次に、あなたがAから債権譲渡の通知を受けた時に、売掛金債権は既に取得していたが、その弁済期はまだ到来していない場合についても、あなたはBに対して売掛金の弁済期が到来したときに相殺を主張できます。一方、あなたが売掛金債権を債権譲渡の通知後に取得した場合には、原則として、売掛金債権と工事代金債権を相殺することはできません。

2020年7月更新(上記記事は2020年4月に施行された改正民法の内容に基づいて記載しています)