海外の企業と国際取引を行う際、場合によっては、日本の法律が適用されずに海外の法律が適用されるということもあります。
 国によって法律の内容は様々なので、取引のときには予想していなかったような思いもよらないトラブルに後日見舞われるという可能性もあり、国内での取引以上に慎重にならなければいけないポイントがいくつもあります。

  私は輸入品の販売会社に勤務していますが、今度、新規に台湾の中小メーカーと長期的に仕入の取引をすることになりました。契約書を作成するにあたりどのような点に注意すればよいでしょうか。

  海外の会社と国際取引をする際も、当事者間で自由に取引の内容を決めることができる「契約自由の原則」があてはまります。

  ただし、契約で定めきれない細かい点については、日本なら慣行や常識あるいは法律で対応できるとしても、国際取引の場合には、そもそも共通の慣行、常識等があるわけではないので、そのままでは対応できません。

  そのため、契約書でどこの国の慣行や常識、法律に従うことにするのかという取り決め(準拠法条項)をしておく必要があります。
特に、海外では、日本よりも契約書に記載してある内容を重視する傾向にあるので、日本での取引以上に慎重に細かい点まで検討し契約書に取り決めておくべきです。

  準拠法条項では、どこの国の法律に従うのか自由に決めてよいのでしょうか。なにか規制があるのでしょうか?

  国際取引契約を締結する場合、準拠法をどの国の法にするかは、当事者が自由に決めてよいこととされています(当事者自治の原則)。

  ですので、契約当事者のどちらの国の法律を準拠法とするかは、当事者間で自由に話し合いで決めることができます。また、当事者とは関係のない中立的な第三国の法律を準拠法とすることもできます。

  ただし、外国の法律を準拠法とする場合には、その外国の法をよく調査しなければならず、国内の弁護士では対応が困難となる可能性があり、多大なコストがかかるというリスクは覚悟しておく必要があります。

  なお、準拠法を契約で取り決めた後であっても、当事者間で合意することが出来れば、事後的に準拠法を変更することもできます。
もっとも、変更前に契約に関与した第三者には、変更を主張できない可能性もあることに注意する必要があります。

  国際取引契約を締結したのですが、準拠法の取り決めは一切していません。この場合、どこの国の法律が適用されるのでしょうか?

  明確に「準拠法を日本法とする」という条項がなくとも、似た条項があれば、準拠法を取り決めていると判断できる場合があります。

  そういった条項も一切ない場合には、契約を総合的にみて、どの国の法律を準拠法としているのかが判断されます。

  目安としては、契約上の中心的な義務のうち、金銭支払い義務以外の義務(特徴的給付)を行う当事者の国の法律が準拠法となる可能性が高くなります。

  例えば、台湾の企業の製品を購入するという契約の場合には、製品引き渡し義務を負う台湾企業の法律が準拠法となる可能性が高くなります。

  台湾の企業の製品を仕入れるために台湾企業と契約をしましたが、契約締結は日本でしましたし、実際の取引の場所も日本です。
準拠法の取り決めはしていませんが、この場合、当然日本の法律が準拠法となるのではないでしょうか?

  この場合も、契約で準拠法を取り決めていない以上、どの国の法律が準拠法となるかは、契約内容から総合的に判断されます。
特徴的な給付を行う台湾企業の法律が第一に可能性としてあげられますが、取引のメインとなる土台が日本であるなら、日本法が準拠法となる可能性もあります。
ただ、この場合は、準拠法となる法律については、裁判になった際の裁判所の判断次第となってしまいますので、日本で取引をするのだとしても、相手が海外の会社である場合には、契約書には念のため準拠法条項をいれておくことが無難といえるでしょう。

  台湾に本社がある会社の福岡営業所で取引の契約を締結したのですが、日本に営業所がある以上、国際取引ではなく、国内取引とみてもよいでしょうか?

  この場合、福岡営業所が日本の会社として設立されているのかどうかを確認しておくことをお勧めします。

設立されているかどうかは、登記事項等で事前に確認することができます。台湾の本社とは別に独立した日本の会社として設立されているなら国内企業同士の取引となるので、日本法が適用されます。

日本の会社として設立されておらず、台湾企業の日本での事務所にすぎないとなると、取引の実態は台湾本社との国際取引となるため注意が必要です。

  国内の会社から海外の製品を大量に仕入れたのですが、すべて不良品で使い物になりませんでした。製品を卸した仕入先はすでに倒産していたので、海外の製造元の企業に損害賠償請求したいのですが、日本の法律が適用されると考えてよいのでしょうか。

  製品が日本で流通することを、海外の製造元の会社が通常予見することができたといえるのであれば、日本の法律が適用されます(生産物責任の追及)。

  通常、製造元は仕入先と契約関係があるはずなので、仕入先企業が日本の企業であるならば、製造元も日本での流通を予見できるといえます。

  製造元と仕入先に直接の契約関係がない場合には、製品のこれまでの流通過程をたどり、製造元が日本での流通を予見可能であったかを検討し、日本の法律が適用されるかどうかを判断する必要があります。

  日本での流通が予見できるものではないと判断された場合には、製造元の国の法律が適用されます。

  海外の企業から商品を仕入れる契約を締結し、商品を受け取ったのですが、全て不良品でした。その企業が全く対応してくれないので、裁判を起こして損害賠償請求をしようと思うのですが、どこの国の裁判所に訴えればよいのでしょうか?

  契約を締結した際に、裁判管轄を定める条項(管轄条項)を契約書に入れていた場合には、そこで定めた管轄裁判所に訴えを提起することになります。

  定めていなかった場合には、原則として相手の国の裁判所に訴える必要があります。

  他方、契約義務の不履行を理由とする損害賠償請求の場合、義務履行地が日本である場合には日本の裁判所に訴えることができます。