相続に伴って,相続人の間で財産を巡ってトラブルが起きるケースは皆さんが思っておられるよりも多いと思います。トラブルを防ぐためには生前に遺言を作っておくことはとても有効です。しかし遺言の作り方等については民法に規定があり,これに反するとせっかく作った遺言の効力が認められないこともあります。
  また遺言の内容については遺留分制度に注意をする必要があります。

  財産がたくさんある場合に、トラブルは起きるのでしょうか?

  そうとは限りません。例えば,自分が大変な思いをして親の面倒をみてきたのに,何もしなかった他の兄弟からは感謝の言葉もなく,当然のように自分と同じ割合で相続するのは納得がいかないとか,自分が聞いていたよりも親の財産が少ないが,他の兄弟だけが生前に財産を分けてもらっているようで納得がいかない等感情的な不満,対立,不信感が背景にあってトラブルになるケースも多いように思います。また,赤の他人よりも身内であるだけに,かえってトラブルが深刻になることも少なくないように思います。

  遺言でどのようなことができるのですか?

  遺言がなければ,法律で定められた割合で相続されることになります。例えば,妻と子供2人が相続人のケースでは,妻が2分の1,子供がそれぞれ4分の1の割合で相続することになります。子供2人だけが相続人の場合には,それぞれ2分の1ずつ相続することになります。
 他方で,遺言によって,法律の規定と異なる割合で相続をさせることができます。

  遺言にはどのような種類がありますか?

  遺言は、民法の定める方式に従わなければならず、法定の方式に反する遺言は無効です。重病で死期が迫っているような特別な場合を除いて、大きく分ければ、遺言には次の三つの種類があります。

① 自筆証書遺言
  これは,遺言をする人が,遺言書の全文,日付および氏名を全て自分で書いて,これに押印することによって成立する遺言のことです。

2019年1月13日施行の法改正以前は、全文自筆する必要がありましたが、現在では、財産目録をパソコン等で作成し、遺言書本体に添付することが認められるようになりました。作成した財産目録は、各頁(両面の場合は両面とも)に,署名・押印をする必要があります。また、 2020年7月1日の施行の法改正により、自筆証書遺言を遺言書保管所(法務局)で保管してもらうことができます。自筆証書遺言の様式は本来自由ですが、保管制度を利用する場合は、所定の様式に従って作成し、無封で提出する必要があります。

② 公正証書遺言
  公証役場で公証人に作ってもらう遺言のことです。この遺言方法は,最も確実な遺言であるといえます。病気等で遺言をする人が公証人役場まで行けないときは,公証人に出張してもらうことも可能です。 作成された公正証書遺言の原本は,公証人によって保管されますので,紛失したり偽造される心配はありません。

③ 秘密証書遺言
  これは、遺言の内容を記載した書面を作成し、(この場合は自分で書かなくても構いません)、それに署名押印し、その書面を封入し、書面に押印したのと同じ印鑑で封印し、それを公証人と証人二人以上の面前に提出し、自分の遺言であること、その住所氏名を述べ、公証人が所定事項を記載し、遺言者、証人が署名押印するものです。

  自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言には、それぞれどのよう なメリット、デメリットがあるのですか?

① 自筆証書遺言は簡単であり,費用もかからない点が長所です。
 しかし,法律の要件を充たして作成していないと無効となる点や,作成後に滅失・偽造のおそれがあること(但し、遺言書保管書を利用すれば滅失の心配は払拭されます。),死亡後に,検認が必要という短所があります。
  検認というのは,遺言を執行する前に,遺言書が法定の方式を満たしているか等を確認する手続で家庭裁判所が行います。

② 公正証書遺言は,後日無効とされるおそれは極めて低いですし,後日の紛争防止,遺言書の保管等が最も確実です。但し,手続が複雑で費用もかかる点が短所ではあります。

③ 秘密証書遺言は、内容を秘密にしておくことができますが、手続が複雑であり、費用もかかり、検認が必要という短所があります。

  遺言の内容を決める際にはどのようなことに注意すればよいですか?

   遺言は,遺言者の財産を,誰に,どのように分けるのかということが中心になりますが,その内容については遺言者が自由に決めることができます。法律上の相続人(法定相続人)ではない者に財産を分けることもできます。したがって遺言の中身につきましてはケースバイケースですが,民法に規定されている遺留分という制度には注意する必要があります。  

  遺留分制度というのは,大まかに言えば,一定範囲の法定相続人については一定割合の範囲で相続財産を引き継ぐことができるとする制度のことで,遺言の内容に関わらず,遺留分を認められている者は放棄をしない限りは相続財産を取得できます。遺留分が認められている相続人は,配偶者,子,直系尊属(つまり自分の親等)で,認められている割合は,直系尊属のみが相続人の場合には法定相続分の3分の1,その他の場合には法定相続分の2分の1とされています。したがって,例えば遺言をする人に子供が1人と妻がいて,全ての財産を妻に相続させるという内容の遺言をしたとしても,子供は妻に対して4分の1の割合で自分に相続財産を分けるよう請求できることとなります。

  遺留分を考慮せずに遺言をした場合には,後々遺留分を巡って相続人の間で紛争が生じることもありますので,この点については十分に注意をして,遺留分の放棄を検討したり,遺留分に配慮をした遺言の内容にしておく等の配慮が必要になります。

  また,財産を遺したいと考えている相手があなたより先に死亡する可能性に備えるべき場合もあります。

  例えば,あなたが会社を経営しており,次男に,そしていずれは次男の子に会社を継がせたいと考え,次男に会社の株式を含めた全ての財産を相続させる旨の遺言書を作成したとします。しかし,次男に先立たれる万一の可能性はないでしょうか。次男に先立たれた場合,あなたが遺した遺言書は効力を生じなくなって,会社の株式は法定相続分に従って相続人らに相続され,次男の子が株式の一部しか相続できない可能性は高いと考えられます。勿論,次男が亡くなった後に,次男の子に財産全てを相続させる旨の遺言書を新たに作成すれば問題は解決できます。しかし,そのときには,あなたはもう遺言書を作成できない状況に陥っているかもしれません。そのような事態に備え,次男が先立った場合には,財産全てを次男の子に相続させる旨を予め遺言書に盛り込んでおくとよいでしょう。

  遺言の作成には弁護士はどのように関わるのですか?

  公正証書遺言を作成する場合にも,その具体的内容を調査,検討します。具体的には,遺言をされる方の希望を最大限尊重しながら,相続財産の現状や,これまでの法定相続人との関係等から,予想されるトラブルがある場合には,これを回避する方策について,アドバイスを行い,内容を作成します。 また,相続が開始した場合には,遺言を具体的に執行する人(例えば,不動産の名義を遺言で取得する人に変更する,預貯金を遺言に従って分配する等。遺言執行者といいます)が必要となりますが,遺言執行者を誰にするかも遺言で決めることができます。中立,公平な立場から,また遺言者の意思を尊重して具体的な遺産分割がなされるように,弁護士を遺言執行者に指名することもあります。作成に関与した弁護士を遺言執行者にすることもできます。