弁護士中山の「私の一冊」

死神って本当は天使だったの? (2017.10.16)

知念実希人 「優しい死神の飼い方」 光文社文庫

作者の知念さんは何と現役のドクター、内科医さんです。
 1978年生まれで現在39歳です。沖縄県に生まれ、東京の巣鴨中学校、巣鴨高校を経て、東京慈恵会医科大学を卒業後、2004年から内科医として勤務する傍ら、2011年に「誰がための刃レゾンデートル」で第4回バラの町福山ミステリー文学新人賞を受賞してその翌年に作家デビューです。
デビュー後はおよそ2か月に1冊の驚異的なペースで新作を書き上げています。そしてことごとくベストセラーになっているんです。 一番売れている2014年発表の50万部を超えるヒット作となった「仮面病棟」はわずか40日間で書き上げています。当時は内科の医師として勤務していてその傍ら執筆していたのですが、最近は執筆依頼が増えたため作家業に専念するために内科医としての仕事は、金曜日と日曜午前だけとなっています。現在働いているのは作者のお父さんの個人医院です。

小学校の卒業文集で「将来作家になりたい」と書いた通りの作家志望でしたが、どこかの学校を出れば自動的に作家になれるということもないので、祖父、父と医者をしていた関係で当然のように医者になりました。
でもあきらめきれずに何年も各賞の投稿を重ね、やっと入賞したのがバラの町福山ミステリー大賞だったのです。作家デビューまでに7年がかりということになりました。

私が知念さんの作品に出合ったのは今回紹介する作品が初めてなのですが、他にも天才女医「天久鷹央(あめくたかお)の推理カルテ」シリーズや「神酒クリニックで乾杯を」シリーズなど職業が医者だけに深い医学的知識を背景として医療ミステリーを中心とした作風となっています。

先ほど知念さんは2か月に一冊という驚異的なスピードで作品を書き上げるとご紹介しましたが、彼によれば作品は会員制の図書館に朝9時半から16時くらいまで籠って書くんだそうです。机の上には書き溜めておいたメモとストップウォッチとパソコンを置いています。15分を6回90分ワンセットで、15分ごとに1〜2分の休憩をはさんで15分間に500文字目標として一日に3セット400字詰め原稿用紙で20枚以上書いているそうです。その日の目標が達成できなかったときは翌日に繰り越すそうです。
ちなみにストレス解消法は、週に2回総合格闘技のジム通いをしています。という感じでとても個性的な方です。

さて作品紹介です。
主人公は死神、その名もレオです。皆さんは死神といえばどんな姿を思い浮かべますか。私は骸骨顔の黒いマントで大きな鎌を抱えている姿をイメージします。そして、死神は恐怖の存在として君臨していますが、それは人間から魂を奪うからですよね。
ところが、作品に登場する死神には実体がありません。無色透明の存在なのです。だから人間世界に降臨するにあたっては物理的存在に身を宿すこともあります。今回、レオはレオにとっての盟主である「わが主様」の命に従い、大型犬ゴールデンリトリバーに身を宿すこととなります。
ゴールデンリトリバーに身を宿した死神レオの使命は死んだ人間の魂を「わが主様」のもとへ導くことです。でも死者にはこの世に未練を残して地縛霊となってしまうものもいるのです。ちなみに地縛霊は将来虚無となってしまうのです。その様なことにならないように死者の魂を天界へ導くこと、これがレオの使命なのです。なんて、言ったらこれはもう死神ではなくてまるで天使じゃないですか、と思うのは私だけでしょうか。

レオの今回の赴任先はホスピス専門の「丘の上病院」。身を宿したゴールデンリトリバーの飼い主はホスピス病院で働く美しいナース菜緒でした。
この病院には死神にしかかぎ分けることのできない死がそう遠くないところで訪れる4人の腐臭が漂っていました。この腐った匂いはこの世に対する強い未練を表していて、腐臭が浄化されて消えない限りは4人の魂はわが主様のもとに行くことはできず、地縛霊と化してしまうのです。
その4人の未練のもととなっているのは戦時中の悲恋、丘の上病院で過去に起きた吸血鬼迷宮殺人事件、色彩を失った画家などの過去の謎でした。
レオはこれらの患者たちの過去の謎を解き明かすべく奔走します。ところが、ストーリーは過去の迷宮殺人事件の真犯人をめぐって意外な展開をしていきます。殺人事件の被害者3名の魂は実は地縛霊化していて、ホスピス病棟の陰にたたずんでいたのでした。
果たしてレオは、迷宮化した殺人事件を解決することはできるのか、その真相はいかにといった感じでストーリーはラストへと向かいます。
作品中、主人公死神レオのセリフがとてもコミカルでそれ自体微笑ましくて、ストーリーそのものも心温まるといった感じです。もちろんラストに向けて感動に涙する人もたくさんいるかと思います。
最後に作品中のレオの言葉を引用します。
「人は死ぬまでにこの世に何かを遺そうとする。あるものは子孫を遺す。あるものは想いを遺す。あるものは自らの名を遺す。そしてあるものはお金を貯めこむことに執着し、何も残すことなく、死とともに全てを失う。何かを遺そうとする行動、それこそが人間がこの世に存在する意義でその過程で魂は磨かれ美しく輝きだす。」

本作品は文庫本で441頁,734円です。
なお、本作品には続編「黒猫の小夜曲」があります(了)。

過去のコラム

(91)  死神って本当は天使だったの?
「知念実希人 優しい死神の飼い方 光文社文庫」 (2017.10.16)

(90)  メンタルなことで仕事が行き詰っていませんか
「北川恵海 ちょっと今から仕事やめてくる メディアワークス文庫」 (2017.9.11)

(89)  池井戸ファンにおススメの一冊です。
「池井戸潤 アキラとあきら 徳間文庫」 (2017.8.22)

(88)  生まれ変わりを信じますか。
「佐藤正午さんの 月の満ち欠け 岩波書店」 (2017.7.12)

(87)  アル・カポネ,ジョン・デリンジャーといえば?
「スティーヴン・ハンター Gマン 宿命の銃弾(上・下) 扶桑社ミステリー」 (2017.6.20)

(86)  もしも過去の事実を改変できるとしたら
「梶尾真治 クロノス・ジョウンターの伝説 徳間文庫」 (2017.5.16)

(85)  もしも人間の知能を人工的に高めることができるとしたら
「ダニエル・キイス アルジャーノンに花束を ハヤカワ文庫」 (2017.4.11)

(84)  NHKさん、シュンスケを大河ドラマの主役にしてください
「門井慶喜 シュンスケ 角川文庫」 (2017.3.30)

(83)  純な気持ちでお読みください。
「住野よる 君の膵臓を食べたい 双葉社」 (2017.1.20)

(番外編)  司法修習生はどんな本を読んでいるのか
「伊坂幸太郎 サブマリン 講談社」 (2016.12.16)

(82)  ピカソのキュビズムって何?
「原田マハ 暗幕のゲルニカ 新潮社」 (2016.11.21)

(81)  家康は僻地江戸をどのように建設したのでしょうか
「門井慶喜(かどい よしのぶ) 家康、江戸を建てる 祥伝社」 (2016.10.13)

(80)  ランニングシューズ業界を覗いてみましょう
「池井戸潤 陸王 集英社」 (2016.9.9)

(79)  ピアノの調律師って?
「宮下奈都 羊と鋼の森 文藝春秋」 (2016.6.17)

(78)  人はなぜ山に登るのか
「夢枕獏 神々の山嶺(いただき) 上下巻、集英社文庫」 (2016.5.31)

(77)  ガラ携って何?
「相場英雄 ガラパゴス上・下巻 小学館」 (2016.4.11)

(76)  尖閣問題について考えてみましょう。
「青木俊 尖閣ゲーム 幻冬舎」 (2016.3.25)

(75)  宗教にはまったことはありますか。
「中村文則 教団X 集英社」 (2016.3.11)

(74)  中国にもつい100年前まで皇帝がいました。
「浅田次郎 蒼穹の昴 講談社」 (2016.1.26)

(73)  「仁義なき戦い」の菅原文太はかっこよかった。
「柚月裕子 孤狼の血 角川書店」 (2015.12.3)

(72)  どうして山に登るのか
「下村敦史 生還者 講談社」 (2015.12.3)

(71)  お互い愛情もない夫婦、そんな中、相手を突然亡くしたら・・・
「西川美和 永い言い訳 文芸春秋」 (2015.11.9)

(70)  復讐とは虚しいものですね
「ピエール・ルメートル その女アレックス 文春文庫」 (2015.10.29)

(69)  人魚姫ならぬ金魚姫はいかがですか
「萩原浩(おぎわら ひろし) 金魚姫 角川書店」 (2015.10.15)

(68)  突然、あなたの秘密が本で暴かれたら?
「ルネ・ナイト 夏の沈黙 東京創元社」 (2015.8.17)

(67)  ダビィンチには謎がいっぱい
「真保裕一 レオナルドの扉 角川書店」 (2015.8.10)

(66)  戦後の台湾をもっと知ってみたい
「東山彰良 流(りゅう) 講談社」 (2015.8.4)

(65)  産業スパイって本当にいるんですよね。
「吉田修一 森は知っている 幻冬舎」 (2015.6.3)

(64)  ライオンさん、一度でも帰国していれば・・・
「さだまさし 風に立つライオン 幻冬舎文庫」 (2015.4.15)

(63)  それでも3億円が当たってみたい。
「川村元気 億男 マガジンハウス」 (2015.4.7)

(62)  神の子は知能が優れているのでしょうか。
「薬丸岳 神の子 上・下巻 光文社」 (2015.3.25)

(61)  米軍史上最強の狙撃手の自伝です
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(60)  戦隊ヒーローに憧れませんでしたか
「阿部和重・伊坂幸太郎合作 キャプテン・サンダーボルト 文藝春秋」 (2015.3.3)

(59)  裁判員裁判について勉強しよう。
「法坂一広 最終陳述 宝島社」 (2015.2.17)

(58)  死を目前にした男の生きざまとは
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(57)  裁判官って普通の人と違うんですか
「黒木亮 法服の王国・小説裁判官(上)(下) 産経新聞出版」 (2014.10.29)

(56) 植物状態から生還したらどうなる?
「真保裕一 奇跡の人 新潮社文庫」 (2013.12.25)

(55) 時をかける手紙
「東野圭吾 ナミヤ雑貨店の奇蹟 角川書店」 (2013.12.11)

(54) 人類の世紀末を想像できますか
「極北 マーセル・セロー  中央公論新社」 (2013.12.2)

(53) パンデミックをご存じですか?
「生存者ゼロ 安生正 宝島社」 (2013.11.21)

(52) 海外で亡くなった人はどのようにして帰国するのでしょうか
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士 佐々涼子 集英社」 (2013.11.13)

(51) 倍返しと土下座で著名な半沢直樹の続編です。
「ロスジェネの逆襲 池井戸潤 ダイヤモンド社」 (2013.11.1)

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