弁護士中山の「私の一冊」

宮澤賢治のイメージが変わるかもしれません。 (2018.2.16)

門井慶喜 「銀河鉄道の父」 講談社

まずは、いつものように作者門井さんの略歴からご紹介するところですが、既に門井さんの作品は、私の一冊81でご紹介しておりますのでそちらをご参照ください。

門井さんは本作品で見事、先の直木賞を受賞されました。今回の受賞までに2回ノミネートされていており、三度目の正直ということになりました。

ところで、門井慶喜という名前は本名で、「慶喜」は歴史好きのお父様が最後の将軍徳川慶喜から名付けたのだそうです。著者のこれまでの作品に「東京帝大叡子教授」と「家康、江戸を建てる」(私の一冊81参照)の2本が彼の歴史小説の中では代表作といえますが、いずれも過去の直木賞にノミネートされており、本作品も歴史小説ですので彼の歴史小説はやっと大成したという感じです。実際、門井さんは直木賞受賞の際のインタビューでは「自分に名付けられた名前からして歴史を仕事にすることが運命づけられていた。歴史を教える人生、歴史で悩む人生」だと言っており、これからも主として歴史小説を書きたいと自負しています。
彼のライフスタイルは毎朝4時に起床、夜9時に就寝するパターン(関係ありませんが私もほぼ同じです。)の中で執筆活動に専念しているそうです。

さて作品紹介です。歴史小説である「銀河鉄道の父」ですが、一言でいえば父宮澤政次郎から見た長男賢治の生涯を描いたものです。

史実としての宮澤賢治は、1896年岩手県花巻市生まれ1933年没、37年間、生涯独身の短い人生でした。結核を患っての病死でした。彼の童話作家として有名な作品に「雨ニモ負ケズ」「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」がありますが、これらはいずれも賢治の弟により、賢治の死後遺された作品の中から出版されたものでした。賢治の生前は詩集「春と修羅」と短編童話集「注文の多い料理店」のわずか2冊だけが自費で出版されましたが、いずれも売れず、失意の中で死を迎えています。

宮澤賢治といえば、東北の貧しい農村風景が浮かぶ作風を彷彿させますが、賢治の父政次郎は、質屋と古着屋を営み地元の町会議員をも務める名士でした。つまり賢治は、東北の農村に漂う暗さとは無縁のお坊ちゃんとして裕福な家庭に生まれ育ったのでした。
「質屋に学はいらない」という賢治の祖父は、小学校で一番の成績だったその息子である賢治の父政次郎を中学校へは進学させませんでした。賢治も尋常小学校を一番の成績で卒業、しかし、祖父の反対に拘わらず父政次郎の計らいで進学した県立盛岡中学校では成績は普通でした。ここで10年先輩にあたる石川啄木が当時発表したデビュー作「一握の砂」に感化され、自らも詩を書くようになります。卒業後一旦は家業を手伝うも、しばらくして、現在の岩手大学農学部に当たる盛岡高等農林学校に進学。卒業後も研究生として残り農業を研究します。
この頃発病し、以後15年間にわたり闘病することとなります。賢治は家業の質屋業を嫌い、長男として質屋を継ぐことを拒絶して、父と対立します。実家の宗教であった浄土真宗から一人日蓮宗に改宗して宗教活動に熱中する反面、父に支援を求め自分で新たな事業を起こそうとしたりします。その傍らで創作活動をしていたのでした。特に一人家を出て上京していた2年間の間にたくさんの作品を書き上げていました。  ・・・というのが宮澤賢治の大まかな史実です。

さて、これらの史実をもとに門井さんはどのような小説に仕立て上げたのでしょうか。
それは読んでのお楽しみですが、父政次郎から見た賢治は天才でも何でもなく、ただの普通のぼんくら息子に過ぎなかったことは確かでした。

個人的な感想で恐縮ですが、私がこの本を読む前にはどんな暗い作品だろうと想像していましたが、意外にも、読み始めるとそんなことは全くなくて、一気に読まされてしまいました。おススメの一冊です。

本日ご紹介したのは歴史小説、門井慶喜さんの「銀河鉄道の父」でした。講談社から2017年9月13日に発刊、単行本で418頁、1728円です。宮澤賢治のことを勉強してみてください(了)。

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「門井慶喜 銀河鉄道の父 講談社」 (2018.2.16)

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