弁護士中山の「私の一冊」

ズバリ!! 明治維新の立役者西郷吉之助です。 (2018.1.15)

林真理子 「西郷(せご)どん」 角川書店

今回ご紹介するのは、今年の大河ドラマの原作です。
ご存知の通り、林真理子さんはマスコミに対しての露出度が高くてとても著名な方で、現在も直木賞の選考委員もしています。彼女は、選考委員として過去にあの横山秀夫さんのミステリー作品である「半落ち」が直木賞にノミネートされた際にクレームをつけて落としたという事件がありました。選考委員の北方謙三さんとともに「半落ち」のストーリーのカギとなる事実についてあり得ないことが前提となっているとして、ミステリー作品として欠陥があると指摘したものでしたが、後にこの指摘が誤りだったことが判明しました。判明後、作者の横山さんはこのことを批判しましたが直木賞選考側からは黙殺され、横山さんはこれが原因で直木賞に決別宣言してしまいました。

そんな林さんは、1954年4月1日生まれの現在63歳、山梨県の書店の娘さんとして育ちました。そんな縁もあって、幼少時から大量の読書をされたとか。日大芸術学部文藝学科を経てコピーライターになります。その傍らに書いたエッセイ集「ルンルンを買っておうちに帰ろう」がベストセラーとなり作家デビューです。86年には「最終便に間に合えば」「京都より」で直木賞を受賞。さらに「みんなの秘密」で吉川英治文学賞、「白蓮れんれん」で柴田錬三郎賞も受賞されているくらいですから、売れっ子に超が付く作家であることは間違いありません。
彼女の作品はコピーライター出身にふさわしくエッセイ集が多く、長編小説は少ないようです。ですから今回ご紹介する「西郷どん」全512頁は彼女にとっては長編に属する作品です。

もちろん本作品は歴史的人物としてあまりにも有名な西郷隆盛の一生を描いたものです。
ところで西郷の肖像写真は実在していないと言われていますが、なぜ残っていないかご存知ですか。
彼は,写真を撮ると魂を吸い取られるとかいう不吉な噂を本当に信じており、ただの一枚の写真も撮らせなかったということです。ですから私たちが目にする肖像画などは、西郷の兄弟や従弟の顔を参考にして描かれたそうで、現実には似ていないと言われる所以です。

徳川幕府を倒して明治維新に導いたのは、薩摩藩と長州藩によるところが大きいのですが、当時西郷は薩摩のドンですね。歴史的事実として西郷は討幕後明治維新政府に入りながらもいわゆる征韓論に敗れて下野して、不平士族とともに西南戦争を起こして敗れ最期を遂げた、ということはご存知だと思います。

幕末において薩摩は江戸から西南端にありながら、その勢力は絶大でしたが、どうしてなのでしょうか。
まずは薩摩藩における武士人口の多さです。当時日本の人口は3千数百万人でしたが、武士階級の人は180万人くらいいたといわれています。このうち薩摩には20万人もの武士がいたのです。薩摩は関ヶ原で西軍について敗れましたが、島津氏代々の家訓としてそれ以降もずっと臨戦態勢にあったため武士が多く、全国の武士の9分の1を占めていたのです。そうして文武両道のもと鍛錬を重ねていたのでした。
次に財力です。当時有力商人から500万両もの負債を抱えていた薩摩藩はこれを数百年間の年賦払いすると一方的に決めつけて、事実上、借金の棒引きをさせるとともに、折からの琉球との密貿易によって莫大な財を築いたのでした。これに加え数百万両にも及ぶ莫大な贋の天保通宝を鋳造しています。ちなみに琉球は1600年代から中国の清に従属しながらも薩摩に支配されていたのです。

そんな薩摩藩にあって、下級武士だった西郷がどうして取り立てられることになったのでしょうか。彼は幼少のころから次期藩主と目されていた島津斉彬の信奉者でした。斉彬は英知の人で尊王攘夷派でしたが次世代を担うものとして、斉彬のイエスマンではなく、正論として物申す人材を求めていたのです。そんな中、藩主となった斉彬に対して意見書の提出を重ねていた西郷が朋輩大久保利通とともに目に留まり登用されることとなったのでした。

さて物語は明治37年、京都市長として赴任して来た西郷隆盛の息子西郷菊次郎の回想からはじまります。

西郷は、尊攘派斉彬死去(前藩主の命により毒殺されたとの説も有力)の後、藩主忠義の父島津久光(斉彬の実弟)から徹底的に嫌われていました。西郷が久光が敵対していた亡兄斉彬に重用されていたからでした。西郷は一度は僧月照とともに錦江湾に飛び込み自殺を図りますが、失敗し、久光の激に触れ二度の島流しとなります。一度目は奄美大島でした。ここで妻を娶り、生まれたのが菊次郎でした。菊次郎は長男なのですが、いずれ西郷がお国鹿児島へ帰るときに島の妻は連れて帰ることはできません。いずれお国で本妻を娶ることになれば、そこに生まれるのが嫡男となるべきとして、島の子は太郎ではなく次郎とされたのでした。実際、西郷はその後本妻いととの間に生まれた男子に虎太郎と名付けました。
菊次郎は6歳にして、西郷のもとにに引き取られここで成長します。15歳にして西南の役に西郷とともに従軍しますが、右足に被弾し政府軍に降伏して一命をとりとめます。が、右足切断となったのでした。

この菊次郎の語りにより西郷の生涯が明らかにされていきます。
西郷がどうして徳川幕府を倒さなければならなかったのか? 明治維新はどのようにしてなったのか? 維新政府は正しい政治を始めたのか? 西郷の主張する征韓論とは? どうして西南戦争は起こったのか? これらの全てが菊次郎により明らかにされていきます。

巻末に膨大な数の参考文献が挙げられています。それだけに本作品の史実に忠実な部分は信頼に値します。

本日ご紹介したのは史実に基づく歴史小説、林真理子さんの「西郷どん」でした。この原稿を書いている段階で、大河ドラマは第2回まで見ましたが、脚本を担当した中園ミホさんによりテレビ向けに大幅に脚色されています。
いずれ、明治維新のヒーロー西郷隆盛の生涯について大いに楽しんでください。
角川書店から2017年11月1日に発刊、単行本で前・後編の2冊で併せて512頁、3672円です(了)。

過去のコラム

(99)  傑作長編時代小説です
「葉室麟 散り椿 角川文庫」 (2018.9.12)

(98)  あなただったら、不治の病とどう向き合いますか?
「二宮敦人 最後の医者は雨上がりの空に君を願う上下巻 Toブックス」 (2018.8.9)

(97)  フォーサイスの真実とは?
「フレデリック・フォーサイス アウトサイダー 陰謀の中の人生 角川書店」 (2018.6.25)

(96)  ジャパニーズウィスキーの発祥って?
「伊集院静 琥珀の夢 小説鳥井信治郎 上・下巻 集英社」 (2018.5.23)

(95)  宮澤賢治のイメージが変わるかもしれません。
「門井慶喜 銀河鉄道の父 講談社」 (2018.2.16)

(94)  ズバリ!! 明治維新の立役者西郷吉之助です。
「林真理子 西郷(せご)どん 角川書店」 (2018.1.15)

(93)  フィンセント・ファン・ゴッホの真実とは
「原田マハ たゆたえども沈まず 幻冬舎」 (2017.12.11)

(92)  ノーベル文学賞作家の作品を読んでみませんか。
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(91)  死神って本当は天使だったの?
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(90)  メンタルなことで仕事が行き詰っていませんか
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(89)  池井戸ファンにおススメの一冊です。
「池井戸潤 アキラとあきら 徳間文庫」 (2017.8.22)

(88)  生まれ変わりを信じますか。
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(87)  アル・カポネ,ジョン・デリンジャーといえば?
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(86)  もしも過去の事実を改変できるとしたら
「梶尾真治 クロノス・ジョウンターの伝説 徳間文庫」 (2017.5.16)

(85)  もしも人間の知能を人工的に高めることができるとしたら
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(84)  NHKさん、シュンスケを大河ドラマの主役にしてください
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(83)  純な気持ちでお読みください。
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(番外編)  司法修習生はどんな本を読んでいるのか
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(82)  ピカソのキュビズムって何?
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(81)  家康は僻地江戸をどのように建設したのでしょうか
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(80)  ランニングシューズ業界を覗いてみましょう
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(79)  ピアノの調律師って?
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(78)  人はなぜ山に登るのか
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(77)  ガラ携って何?
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(76)  尖閣問題について考えてみましょう。
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(75)  宗教にはまったことはありますか。
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(74)  中国にもつい100年前まで皇帝がいました。
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(73)  「仁義なき戦い」の菅原文太はかっこよかった。
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(72)  どうして山に登るのか
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(71)  お互い愛情もない夫婦、そんな中、相手を突然亡くしたら・・・
「西川美和 永い言い訳 文芸春秋」 (2015.11.9)

(70)  復讐とは虚しいものですね
「ピエール・ルメートル その女アレックス 文春文庫」 (2015.10.29)

(69)  人魚姫ならぬ金魚姫はいかがですか
「萩原浩(おぎわら ひろし) 金魚姫 角川書店」 (2015.10.15)

(68)  突然、あなたの秘密が本で暴かれたら?
「ルネ・ナイト 夏の沈黙 東京創元社」 (2015.8.17)

(67)  ダビィンチには謎がいっぱい
「真保裕一 レオナルドの扉 角川書店」 (2015.8.10)

(66)  戦後の台湾をもっと知ってみたい
「東山彰良 流(りゅう) 講談社」 (2015.8.4)

(65)  産業スパイって本当にいるんですよね。
「吉田修一 森は知っている 幻冬舎」 (2015.6.3)

(64)  ライオンさん、一度でも帰国していれば・・・
「さだまさし 風に立つライオン 幻冬舎文庫」 (2015.4.15)

(63)  それでも3億円が当たってみたい。
「川村元気 億男 マガジンハウス」 (2015.4.7)

(62)  神の子は知能が優れているのでしょうか。
「薬丸岳 神の子 上・下巻 光文社」 (2015.3.25)

(61)  米軍史上最強の狙撃手の自伝です
「クリス・カイル アメリカン・スナイパー ハヤカワ文庫」 (2015.3.10)

(60)  戦隊ヒーローに憧れませんでしたか
「阿部和重・伊坂幸太郎合作 キャプテン・サンダーボルト 文藝春秋」 (2015.3.3)

(59)  裁判員裁判について勉強しよう。
「法坂一広 最終陳述 宝島社」 (2015.2.17)

(58)  死を目前にした男の生きざまとは
「殉愛 百田尚樹 幻冬舎」 (2014.11.27)

(57)  裁判官って普通の人と違うんですか
「黒木亮 法服の王国・小説裁判官(上)(下) 産経新聞出版」 (2014.10.29)

(56) 植物状態から生還したらどうなる?
「真保裕一 奇跡の人 新潮社文庫」 (2013.12.25)

(55) 時をかける手紙
「東野圭吾 ナミヤ雑貨店の奇蹟 角川書店」 (2013.12.11)

(54) 人類の世紀末を想像できますか
「極北 マーセル・セロー  中央公論新社」 (2013.12.2)

(53) パンデミックをご存じですか?
「生存者ゼロ 安生正 宝島社」 (2013.11.21)

(52) 海外で亡くなった人はどのようにして帰国するのでしょうか
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士 佐々涼子 集英社」 (2013.11.13)

(51) 倍返しと土下座で著名な半沢直樹の続編です。
「ロスジェネの逆襲 池井戸潤 ダイヤモンド社」 (2013.11.1)

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