弁護士中山の「私の一冊」

生まれ変わりを信じますか。 (2017.7.12)

佐藤正午さんの「月の満ち欠け」岩波書店

本作品のジャンルはファンタジーな純愛小説です。
正午さんの略歴につきましては私の一冊(5)
を参照してください。 本作品は,タイトルの「月の満ち欠け」からもうかがわれますとおり,ひとの生まれ変わり,輪廻をテーマにしています。

人生は一度だけで生まれ変わりなんてあるわけないじゃんと言われる方も多いかと思います。
でも,現在生きている私たちは誰もまだ死んだことはありませんよね。だったら本当は死んでみないと生まれ変わりがあるのかないのかわからないのではという主張にも一理あるわけです。

テレビの特番などで前世の記憶をもって生まれた人の存在が取りざたされることがよくあります。彼らはその亡くなっている人しか知りえない知識や経験を語るのです。
単なる偶然として片づけられるのか,それとも前世の存在があるがゆえにその知識を持つことができたのか。もちろん,どちらが正しいかなんて確定することはできませんが,夢があっていいじゃないですか,面白いじゃないですか。

ということで,物語の冒頭は一人称の私小山内が,ある母親とその幼い娘の要望に応じ古い肖像画を携えて会いに行くところから始まります。母親は今はバツイチのタレントで,小山内の亡き娘の親友であり,娘は小山内の亡き娘と同じ「るり」という名の7歳の少女でした。肖像画には青年が描かれており,小山内の亡き娘が高校の美術部で制作したものでした。
そこでの小山内と母娘との会話時間にして2時間足らずの回想によるストーリーからこの小説は構成されています。これが正午さんの作風でもあります。

小山内の娘瑠璃は,18歳になり高校に卒業式を終えてすぐに妻とともに不慮の交通事故死を遂げていました。なのに今目の前にいる少女るりは,小山内の持ってきた肖像画に描かれている人物のことを知っており,自身が小山内の娘瑠璃の2代あとの生まれ変わりだというのです。
つまり,小山内の娘瑠璃が死んで死んだ瑠璃が誰かに生まれ変わって,その誰かがまた死んでさらに生まれ変わったのが目の前のるりだというのです。そんな馬鹿な話があるもんかと,思う間もなく,小山内の亡くなった娘瑠璃には前世があって,その前世が初代瑠璃だというのです。初代瑠璃は現在まで3回輪廻しており,絵の青年は初代瑠璃の恋人で,現在は中年にはなっているものの元気にしていると言います。

ふと小山内は,瑠璃の幼少の頃を思い起こします。そういえば,瑠璃は7歳の時に原因不明の高熱に数日間うなされた後,嘘のように回復しました。亡くなった妻によれば回復後のある時から,瑠璃は自らは知るはずのない黒猫のタンゴという唄を歌ったり,黛ジュンの歌を口ずさんだりしたことがあると言うのです。さらに誰に会おうとしたのか何度も家出したのでした。家出した娘を迎えに出向いた瑠璃は小山内に問います。「いくつになったら一人で自由にどこへでも行けるようになるの?」と,小山内は「高校を卒業したら」と単純に答えたもんでした。その後の瑠璃は落ち着いたように見えました。私はそれまでの瑠璃の奇異な行動を好奇心と片付け,不審とは思わずに妻に任せた切り,家出騒動の後は瑠璃は何の問題なく過ごしてきたものとばかり思っていました。

今目の前にいる母娘が言うように初代瑠璃の生まれ変わりが小山内の娘瑠璃であるとするならば一体どうなっているのか。
母娘の語りにより,初代瑠璃が経験した純愛物語から現在に至るまでのパズルが一つずつあるべき場所に埋まったとき,予期もしなかった新たな謎が発生します。

瑠璃に生まれ変わりがあるのなら,ほかの誰か例えば瑠璃とともに亡くなった小山内の最愛の妻にも生まれ変わりはなかったのか,だとすれば生まれ変わったはずの妻は今どこで何をしているのか,といった感じでストーリーは進んでいきます・・・が,いかがでしょうか。

本作品は今年の上半期の直木賞候補となっています。

本作品が今年の4月に出版されていたことは当時から知っていたのですが,残念ながら電子書籍化されていなかったので電子書籍派の私は読んでいませんでした。ついこないだ直木賞候補になったと知って,当分電子書籍化はないとあきらめ本を購入しました。
購入して東京出張の道中読みました。読み始めると早く読み上げたくて一日目の深夜に読み終わり,帰りの移動時中にさらにもう一回都合2回読みました。彼の作品は例によってあっちこっち時間が飛ぶので,2回読んですっきり全てのパズルが頭の中でおさまりました。
ハイ,とても面白かったです。
結局,生まれ変わりが起こるかどうかは愛の深さ次第ということです。詳細は読んでのお楽しみということで

2017年4月5日発刊365頁1988円です(了)。

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