弁護士中山の「私の一冊」

NHKさん、シュンスケを大河ドラマの主役にしてください (2017.3.30)

門井慶喜「シュンスケ」角川文庫

このコーナーの(81)で門井さんの「家康、江戸を建てる」をご紹介しましたが、再び登場です。
本作品はずばり伊藤博文の少年時代を描いた歴史小説です。時代設定としての幕末は、時代が激動していただけにサクセスストーリーやドラマチックなノンフィクションが多くて面白いですよね。

個人的なお話になりますが、私は伊藤さんと同郷でもと長州藩山口県出身です。小学校の時、「私たちの郷土」みたいな授業があって、郷土出身の幕末の偉人さんのことを学びました。吉田松陰の松下村塾あたりから塾出身の久坂玄瑞、高杉晋作、吉田利麿、入江九一、桂小五郎、前原一誠、品川弥次郎、山形有朋、伊藤博文などなどでした。なかでも、高杉晋作は何度もドラマや映画で取り上げられていますが、伊藤博文については主役として取り上げられた映像を見たことがありません。なぜなのか、そのヒントがこの作品から見つかるかもしれません。

伊藤博文といえば今より2つ前の大きなサイズの1000円札の肖像になっていましたよね。彼は長州藩出身で吉田松陰門下生として学び、尊王攘夷討幕運動をして幕末を生き抜き、明治維新に貢献しました。  維新の三傑と言われた西郷隆盛(西南戦争後自決49歳)、木戸孝允(桂小五郎44歳で病死)、大久保利通(48歳で暗殺さる)は皆若くして亡くなっていますので、大久保の後継者として明治政府をけん引していきました。ちなみに大久保が亡くなった1878年に伊藤はまだ37歳でして一番若かったということもその後の活躍に大いに影響しています。

 1885年、初代内閣総理大臣に就任、以降4回にわたって総理大臣を歴任。明治天皇の忠臣としてと最も懇意にされていた政治家の一人でした。初代総理大臣の候補者はほかに公家出身の公爵三条実美がおり、こちらの方が家柄も経歴もダントツで有力視されていたのですが、長州閥の圧力で表向きには「これからの時代英語による電文が読めなければダメだ」とのことで、ロンドンやヨーロッパ留学の経験から英語がペラペラだった伊藤が三条に勝ったとのエピソードがあります。史上最年少の44歳にしての就任でした。
 以後、数々の功績を遺していますが、無類の女好きとして有名です。お金に無欲で無趣味でしたが芸者遊びが絶えず、一目ぼれすると手当たり次第で、公務にも支障が出るくらいだったそうです。この話を聞いた明治天皇をして「女遊びは少しは謹んではどうか」とのお叱りの言葉を受けたほどだそうです。
 そんな伊藤も最後はテロリストの凶弾に斃れます。1909年、ハルビン駅で韓国の安重根に暗殺されたとされています。69歳でした。もっともこの暗殺犯については、ケネディ暗殺事件のオズワルドと同じく疑惑が残っています。いわく、伊藤の体内に残された3発の銃弾の種類から安重根のピストルから発射されたものとは違う、ライフルから発射された弾があったのです。当時、韓国併合に否定的だった伊藤に対して、日本国内の併合強硬派からの謀殺説があったのでした。事実、伊藤が亡くなった翌1910年、韓国、今でいう南北朝鮮半島はすべて日本の領土として併合されます。

 さて作品です。タイトルのシュンスケですが、伊藤博文の幼名は利助といいました。利助の「利」は利益の「利」でこれを「とし」とも読みますので、「俊」に置き換えて「シュンスケ」と読ませるようにしました。そうさせたのは、なんとあの高杉晋作の指示によるもので武士らしい名前をということだったのです。明治維新とともに博文、知識読みでハクブンと改めたのです。

 物語の始まりは、年老いたシュンスケと明治天皇とのやり取りに始まります。シュンスケは韓国併合をめぐるロシアとの交渉のためハルビンを訪れる前に明治天皇にあいさつにやってきたのでした。天皇とのやり取りの後、時は飛んで過去へと遡ります。シュンスケは百姓の子として今の山口県は光市に生まれます。養子に出され養父は超下級武士の足軽。17歳にして松下村塾に入門しますが、身分が低いために塾外にて立ったまま講義を聞きました。
19歳で桂小五郎の郎党となり江戸に出ます。折しも安政の大獄で斬首された吉田松陰の亡骸を高杉晋作とともに掘り起こし手厚く葬ります。品川の英国公使館焼き討ちに参加、さらに長州藩の英国留学にも参加。一人1000両もの留学費を藩の銃器購入費として江戸藩邸に蓄えられていた1万両から銃は自分たちが購入するとの大義名分のもと横領して出国。  ロンドンに降り立ったシュンスケはすぐに、英国の産業の発展のレベルに度肝を抜かれます(この時代ロンドンでは既に地下鉄が開通していました)。そして夷敵を払おうとする攘夷主義がいかにばかげているかを悟ります。
 帰国するとすぐに開国論者となり、当時討幕運動をしていた高杉に合流します。そして時代は明治維新へと向かいます。これら史実をベースとしてユニークなエピソードを交えて物語は面白おかしく進んでいきます。
 そして、時はついに物語の冒頭のハルピンへ向かう列車内に戻ります。・・・といった感じで伊藤博文を読み解くことができますが、いかがでしょうか。最後に、作者の門井さんの略歴ですが、私の一冊(81)をご参照ください(了)。

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