弁護士中山の「私の一冊」

純な気持ちでお読みください。 (2017.1.20)

住野よる「君の膵臓を食べたい」双葉社

今回ご紹介するのは、満を持してのご紹介となります。2015年6月に発刊され、既に60万部を売り上げ、映画化も決まり現在もまだ売れ続けているという、ロングラン、住野よるさんの「君の膵臓(すいぞう)を食べたい」双葉社から発刊です。

 

さて、作者の住野よるさんですが、高校の頃から小説を書き始めていて、何と本作品がデビュー作です。大阪出身で現在20代後半の男性だと推測されていますが、自らは何ら公表していておらずそのプロフィールについては謎に包まれています。作品自体は2013年には書き上げらていて小説化デビューを目指していた本人から複数の出版社の各賞に応募されていたようですが残念ながら認められなかったそうで、最後に「小説家になろうという」小説投稿サイトに応募したところ、その投稿サイトの管理者サイドに認められて2015年に双葉社からの出版となったのだそうです。それが口コミ耳コミで評判になって売れ始め、2016年度の本屋さん大賞の2位にまで選出されています。ちなみにこの年の本屋さん大賞1位は宮下奈都さんの「羊と鋼の森」でした。

 

「君の膵臓を食べたい」なんてタイトルからして気味が悪いですが、膵臓は胃の裏側、つまり背中の方にあるサイズは3㎝×15㎝で厚さは3㎝、重さ70gくらいの臓器ですが、主として膵液という液体を分泌して炭水化物、脂肪、たんぱく質を分解し、血液中のブドウ糖濃度を調節する機能を有する重要な作用を有しています。

 

従って、膵臓を病んでしまって正常の機能が失われると死に至ることとなります。このような膵臓を食べたいとは、まさか人喰いの話かい、猟奇殺人か、なんて、果たしてどんな内容の小説なんだろう、と読む前はずっと素朴な疑問がありました。が、読んでしまえばそうか、そうなんだという感じでとりあえず納得しますのでご安心ください。
昔よく言ってませんでしたっけ、例えば目の悪い人は、レバーが目にいいからレバーを食べなさいって、本作品のタイトルはそれと同じで膵臓が悪ければ膵臓を食べればいいっていう発想なんですね。えっ、やはり食べる話かって、いやいや、本当に食べたりしません。

 

さて作品内容です。
物語の初めは唐突に
「クラスメイトの山内桜良の葬儀は、生前の彼女にはまるで似つかわしくない曇天の日に執り行われた」
という書き出しで始まります。

 

桜良はもちろん主人公の一人ですが、そうして、もう一人の主人公である作品中一人称の「僕」は、彼女に送ったおそらく最後のたった一言のメールを確認します。それを彼女が死ぬ直前に見たのかどうかはわからないのです。
「君の膵臓を食べたい」
携帯にはそう記されていました。
と、ここから「僕」と桜良の奇妙なストーリーが始まります。

 

現在から過去への僕の回想です。ある日病院を訪れていた「僕」は待合室のベンチで「共病文庫」とタイトルのつけられていた文庫本サイズの日記帳らしいものを見つけます。ふとそのページをめくるとその文庫の作者は、偶然にも僕のクラスメートである桜良であり、彼女は膵臓の病気により余命がそう長くないことがつづられていたのでした。そこまで読んだところで持ち主の桜良が目の前に立っていることに気づき、本を返すのですが、僕が桜良の病気を知ってしまったことに対して、桜良から僕は「病気の事実は親友はもちろん身内以外には誰にも知られていない」ことを告げられ、偶然にも僕は桜良の身内以外で唯一彼女の病気を知る人物となるのでした。生来、僕は人との関りを苦手としむしろ必要ないとまで考え,好んでかかわりを持たず、読書好きの根暗の少年でした。
一方、桜良はよく笑い元気で社交的で人気者で僕とは対極に位置する性格でした。
ある日、僕は図書委員をしていて図書室での活動中に、同じ委員をしている桜良から、「君の膵臓を食べたい」と言われます。さらに戸惑う僕に対して桜良は、僕が桜良の病気のことを知っていることを奇貨として、桜良が「死ぬ前にこれだけはやっておきたいことがある」として、これに付き合うよう要求し、僕は好むと好まざるにかかわらず、これに付き合うわざるを得ないこととなります。食べ放題の焼肉屋やスイーツに付き合ったり、ある時は突然、博多へ泊りがけの旅行に行く羽目になったりと、いろいろ付き合っているうちに正反対の性格の二人が互いに相手方のことを認められるようになり、僕は桜良に惹かれ始めれることを認識していきます。
…といったかんじでストーリーは淡々とすすんでいきますが、途中、桜良の元カレが登場して僕を攻撃したり、桜良の大の親友の恭子ちゃんが登場して僕のことを非難したり、ちょっとした紆余曲折はありますが、物語の冒頭から分かり切っていた少女桜良の死へと次第に向かっていくのですが、ここで意外な仕掛けがありますす。というか、なにこれって感じです。それは読んでのお楽しみということで。
ラストは時を現在に戻して、僕の現在がどうなっているのかということですが…いかがでしょうか。

 

本作品は、さすがに大ヒット話題作であり冒頭で言いましたように既に映画化が決定しています。それも今年の8月には封切り予定です。主演は高校時代の桜良に浜辺美波と、僕を北村匠海といずれも若手ですが、現在の僕を小栗旬、桜良の親友恭子を北川景子が演じます。ちょっと興味ありませんか。

 

本作品は満を持してのご紹介だったわけですが、売れてはいるのですが、その評価については分かれています。辛口の人はこんなのあり得んとか、お涙頂戴の最たるものだとか、いろいろ揚げ足を取るでしょう。そこはそれ、新人小説なんだから大目に見ようではありませんか。
ラストの読後感はとてもいいものがありました。ラストに向けてもちろん私も泣けてきて、たまたま空港で人待ちしていたところでしたので人前で涙するのもはばかれ、気づかれないようにハンカチを使いましたが、これを読んで涙できる人はまだまだ純粋な心の持ち主だと思います。
単行本で188頁、1512円です(了)。

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