弁護士中山の「私の一冊」

家康は僻地江戸をどのように建設したのでしょうか (2016.10.13)

門井慶喜(かどい よしのぶ)「家康、江戸を建てる」祥伝社

 

作者の門井さんですが、1971年11月群馬県生まれ、その後栃木県宇都宮市で育ちます。大学は京都は同志社大学の文学部卒業。2000年から文学賞の応募を始めて2003年「キッドナッパーズ」で第42回オール読物推理小説新人賞を受賞され、デビューです。失礼ながらこれといって目立った作品はなかったのですが、推理小説のほか、伊藤博文、榎本武揚、坂本竜馬の妻おりょうなどの歴史的人物を主人公にした歴史小説や歴史推理小説も書かれており、今回紹介する作品もその系譜に属するものです。

 

江戸時代は1603年に家康が征夷大将軍に任命された時に始まり以降、最後の将軍慶喜で明治維新の1868年を迎え、265年もの太平の世が続きました。江戸幕府が開かれてから100年を経た1700年代には江戸の人口は100万人以上となり、日本だけではなく世界でも最大の人口を誇っておりました。ちなみに当時の大阪、京都の人口はそれぞれ40万人程度でした。53もの宿場を有する東海道は世界最大の賑わいを見せていたといわれています。本作品は史実に基づき、この江戸を建設する巨大プロジェクトを描いたものです。

 

物語は秀吉の家康に対する領地替えの命令に始まります。大河ドラマ「真田丸」でも映像化されていましたが、天正18年、豊臣秀吉は天下統一の仕上げとして、小田原北条攻めをします。このシーンで、落ちゆく小田原城を眺めながら秀吉は家康を連れションに誘います。そこで、秀吉は家康に対して、軽く「見渡す限りの北条家の関八州240万石の所領を貴殿に差し上げよう」と囁きます。関八州の地、そこは、水浸しの低湿地が多い未開発の広大な土地だったのですが、そのまま使える有効面積はさほど広くありませんでした。何より、現在の家康の豊潤な所領である駿河、遠江(とおとうみ)、三河、甲斐、信濃のすべてを召し上げられる、つまり交換ということだったのでした。余りといえばあまりにひどい秀吉の要求でしたが、家康は家臣団の猛反対に拘わらず、「関東にはのぞみがある」としてこれを受けいれます。

 

家康は未開の地、江戸を大きく変えるというよりその建設に着手します。作品は家康に命じられた技術官僚の立場から着目した5つの短編連作となっています。
 第1話は大地の低湿地対策のため、利根川の流れを変えるための大工事を描いた「流れを変える」。川の流れを変えるためには新たな川を掘ってそこを支流としなければなりません。果たしてうまくいくのでしょうか。

 

第2話は当時秀吉が独占していた通貨の鋳造を新通貨の小判を武器に通貨戦争を仕掛ける「金貨を延べる」。小判をご覧になったことがあるでしょうか。いろんな書き込みなどがありますがその意味が分かります。

 

当時の土木技術を活かして現在の井の頭公園の池から神田上水の建設の過程を描いた第3話「飲み水を引く」。高低差によって水に流れを作ることは簡単ですが、レベルの場合どうやって水の流れを作るのでしょうか。

 

江戸城の築城のための巨大な石垣をどこからどのように調達して江戸まで輸送し、どうやってを巨岩を積んでいくのかを描いた第4話「石垣を積む」。 ピラミッドほどではありませんが、現在の皇居に残る江戸城の膨大な石垣はどのようにして作られたのでしょうか。

 

江戸城の天守閣築造をめぐるエピソードである第5話「天守を起こす」 の5話です。天守閣とは何のためのものだったのでしょうか。信長は天守閣で日常生活をしていたといわれていますが…

 

本作品は史実を忠実に物語に織り込んでおり、東京の現在の地名の由来などもよくわかり、読者をしてどこまでが本当でどこが創作かがわからずに、ついついすべてが本当にあったことなんだと楽しませてくれます。
また、この本を読むことによって家康の江戸建設の史実を勉強させてくれますので知識欲も大いにを満たしてくれること請け合いです。何せ知識は知らないよりは知っていた方が楽しいというだけのことですが自己満足させてくれることに違いありません。

 

門井さんは「東京帝大叡古教授」が2015年の直木賞候補となり、本作品は、ご自身2作目の2016年の直木賞候補となっていましたが、残念ながら受賞には至りませんりました。ちなみに、この時の直木賞受賞作は荻原浩さんの「海の見える理髪店」でした。

 

単行本で1944円、400頁です。
娯楽小説を読むということは単純に遊んでいることと同じことだと思います。どうか多いに遊んでください(了)。

過去のコラム

(90)  メンタルなことで仕事が行き詰っていませんか
「北川恵海 ちょっと今から仕事やめてくる メディアワークス文庫」 (2017.9.11)

(89)  池井戸ファンにおススメの一冊です。
「池井戸潤 アキラとあきら 徳間文庫」 (2017.8.22)

(88)  生まれ変わりを信じますか。
「佐藤正午さんの 月の満ち欠け 岩波書店」 (2017.7.12)

(87)  アル・カポネ,ジョン・デリンジャーといえば?
「スティーヴン・ハンター Gマン 宿命の銃弾(上・下) 扶桑社ミステリー」 (2017.6.20)

(86)  もしも過去の事実を改変できるとしたら
「梶尾真治 クロノス・ジョウンターの伝説 徳間文庫」 (2017.5.16)

(85)  もしも人間の知能を人工的に高めることができるとしたら
「ダニエル・キイス アルジャーノンに花束を ハヤカワ文庫」 (2017.4.11)

(84)  NHKさん、シュンスケを大河ドラマの主役にしてください
「門井慶喜 シュンスケ 角川文庫」 (2017.3.30)

(83)  純な気持ちでお読みください。
「住野よる 君の膵臓を食べたい 双葉社」 (2017.1.20)

(番外編)  司法修習生はどんな本を読んでいるのか
「伊坂幸太郎 サブマリン 講談社」 (2016.12.16)

(82)  ピカソのキュビズムって何?
「原田マハ 暗幕のゲルニカ 新潮社」 (2016.11.21)

(81)  家康は僻地江戸をどのように建設したのでしょうか
「門井慶喜(かどい よしのぶ) 家康、江戸を建てる 祥伝社」 (2016.10.13)

(80)  ランニングシューズ業界を覗いてみましょう
「池井戸潤 陸王 集英社」 (2016.9.9)

(79)  ピアノの調律師って?
「宮下奈都 羊と鋼の森 文藝春秋」 (2016.6.17)

(78)  人はなぜ山に登るのか
「夢枕獏 神々の山嶺(いただき) 上下巻、集英社文庫」 (2016.5.31)

(77)  ガラ携って何?
「相場英雄 ガラパゴス上・下巻 小学館」 (2016.4.11)

(76)  尖閣問題について考えてみましょう。
「青木俊 尖閣ゲーム 幻冬舎」 (2016.3.25)

(75)  宗教にはまったことはありますか。
「中村文則 教団X 集英社」 (2016.3.11)

(74)  中国にもつい100年前まで皇帝がいました。
「浅田次郎 蒼穹の昴 講談社」 (2016.1.26)

(73)  「仁義なき戦い」の菅原文太はかっこよかった。
「柚月裕子 孤狼の血 角川書店」 (2015.12.3)

(72)  どうして山に登るのか
「下村敦史 生還者 講談社」 (2015.12.3)

(71)  お互い愛情もない夫婦、そんな中、相手を突然亡くしたら・・・
「西川美和 永い言い訳 文芸春秋」 (2015.11.9)

(70)  復讐とは虚しいものですね
「ピエール・ルメートル その女アレックス 文春文庫」 (2015.10.29)

(69)  人魚姫ならぬ金魚姫はいかがですか
「萩原浩(おぎわら ひろし) 金魚姫 角川書店」 (2015.10.15)

(68)  突然、あなたの秘密が本で暴かれたら?
「ルネ・ナイト 夏の沈黙 東京創元社」 (2015.8.17)

(67)  ダビィンチには謎がいっぱい
「真保裕一 レオナルドの扉 角川書店」 (2015.8.10)

(66)  戦後の台湾をもっと知ってみたい
「東山彰良 流(りゅう) 講談社」 (2015.8.4)

(65)  産業スパイって本当にいるんですよね。
「吉田修一 森は知っている 幻冬舎」 (2015.6.3)

(64)  ライオンさん、一度でも帰国していれば・・・
「さだまさし 風に立つライオン 幻冬舎文庫」 (2015.4.15)

(63)  それでも3億円が当たってみたい。
「川村元気 億男 マガジンハウス」 (2015.4.7)

(62)  神の子は知能が優れているのでしょうか。
「薬丸岳 神の子 上・下巻 光文社」 (2015.3.25)

(61)  米軍史上最強の狙撃手の自伝です
「クリス・カイル アメリカン・スナイパー ハヤカワ文庫」 (2015.3.10)

(60)  戦隊ヒーローに憧れませんでしたか
「阿部和重・伊坂幸太郎合作 キャプテン・サンダーボルト 文藝春秋」 (2015.3.3)

(59)  裁判員裁判について勉強しよう。
「法坂一広 最終陳述 宝島社」 (2015.2.17)

(58)  死を目前にした男の生きざまとは
「殉愛 百田尚樹 幻冬舎」 (2014.11.27)

(57)  裁判官って普通の人と違うんですか
「黒木亮 法服の王国・小説裁判官(上)(下) 産経新聞出版」 (2014.10.29)

(56) 植物状態から生還したらどうなる?
「真保裕一 奇跡の人 新潮社文庫」 (2013.12.25)

(55) 時をかける手紙
「東野圭吾 ナミヤ雑貨店の奇蹟 角川書店」 (2013.12.11)

(54) 人類の世紀末を想像できますか
「極北 マーセル・セロー  中央公論新社」 (2013.12.2)

(53) パンデミックをご存じですか?
「生存者ゼロ 安生正 宝島社」 (2013.11.21)

(52) 海外で亡くなった人はどのようにして帰国するのでしょうか
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士 佐々涼子 集英社」 (2013.11.13)

(51) 倍返しと土下座で著名な半沢直樹の続編です。
「ロスジェネの逆襲 池井戸潤 ダイヤモンド社」 (2013.11.1)

Column41-50
Column31-40
Column21-30
Column11-20
Column1-10
番外編
スコットランドゴルフ紀行

HOME › 弁護士中山の「私の一冊」

» 事務所紹介    » 業務内容    » 弁護士紹介    » 各種料金    » お問い合わせ