弁護士中山の「私の一冊」

ピアノの調律師って? (2016.6.17)

宮下奈都 「羊と鋼の森」 文藝春秋

 

作者の宮下さんは1967年福井県ご出身です。上智大学文学部哲学科を卒業され、普通に結婚されました。2004年にご自身3人目のお子さんを妊娠中に執筆した「静かな雨」という作品で文学界新人賞の佳作に選ばれ作家デビューです。その後、これといったヒット作には恵まれていませんでしたが、そんな中での本作品「羊と鋼の森」は2016年の直木賞候補ともなり、めでたく第13回本屋大賞受賞となりました。

 

本屋大賞ってどんな賞かご存知ですか。

 

そう。全国の書店員の投票により「最も売りたい本」を選ぶんですね。で、書店員が選ぶわけですから財源もなく賞金はありません。でも、でもですよ、本屋大賞の候補として毎年10作品にノミネートされるだけでもとても話題になり、売れますよね。ちなみに今回ノミネートされた10作品のうち落選した主なものをあげますと、住野よる「君の脾臓を食べたい」東山彰良「流」又吉直樹「火花」中村文則「教団X」西川美和「永い言い訳」など、かなり売れている作品であることが分かります。

 

これが大賞受賞ともなると本屋さん折り紙付きですから売れること間違いなしのベストセラーになっています。

 

その証拠に過去の受賞作を挙げてみますと、あの百田尚樹の「海賊と呼ばれた男」三浦しおんの「舟を編む」冲方丁の「天地明察」湊かなえの「告白」伊坂幸太郎の「ゴールデンスランバー」リリーフランキーの「東京タワー」などなどがあります。

 

さて本作品ですが、一言でいえば、ひとりの少年がピアノの調律師をめざし調律師として一人前になる過程を描いた物語です。

 

ピアノってどいう仕組みで音が鳴るかわかりますか。

 

ピアノには白と黒の鍵盤があって、この鍵盤をたたくとピアノ内部のハンマーヘッドが連動してピアノ線といわれる弦を打ってそれが音となります。このハンマーヘッドのフェルト部分は羊の毛でできています。そして弦は金属の鋼ですね。そう、本作品のタイトルの羊はハンマー、鋼はピアノ線、そうしてこれらを包む森がピアノのことを意味しているのです。

 

ピアノは弦楽器ですからほおっておくと音が狂います。だからその微妙な狂いを調律する必要があるのです。普通ピアノの調律は家庭用で一年に一回程度しているようですが、買ってから数十年間一度もされていないということもままあるようです。ただ、プロたるピアニストともなればコンサートごとに調律するそうで、著名なピアニストさんともなれば、ご指名の調律師さんがいるようです。

 

さて物語の舞台は北海道の小さな町、山深い森の中で育った主人公外村(とむら)は17歳の高校2年生です。担任の先生に言いつかり高校の体育館の隅にあった大きな黒いピアノの調律にたまたま立ち合います。このときの調律師板鳥との出会いを機にピアノの調律という世界に魅せられてしまいます。外村は、高校を卒業すると調律師を養成する専門学校へと進学して、卒業後は板鳥と同じ職場で調律師の第一歩を歩み始めます。

 

しかし、外村の技術的な未熟さ、音楽的な才能のなさなどから不安感は募り、調律師として一人前になる道は険しいものでした。職場にはプロ意識の高い板鳥調律師のほか、外村と組んで顧客を担当する先輩の柳調律師、ピアニストを目指していて挫折した経歴を持つちょっぴり意地悪な秋野調律師がいます。これら先輩調律師との交流や調律を担当したピアノの様々な顧客を通じて外村自らが次第に成長していく過程を緻密に描いています。ことにピアニストを目指す双子の女子高校生の姉妹の挫折と成長に関わる場面は、とても和やかなものでした。

 

世界と調和していること、それがどんなに素晴らしいことか、言葉で伝えきれないなら音で表せるようになればいい、外村が調律師として成長する様を温かく読んでみてください。

 

一流の調律師さんによれば、調律師としての秘訣は「才能よりも根気、大事なのはこつこつやること」とのことです。この言葉の意味をしみじみと感じさせる作品でした(了)。

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