弁護士中山の「私の一冊」

お互い愛情もない夫婦、そんな中、相手を突然亡くしたら・・・ (2015.11.9)

西川美和 「永い言い訳」 文芸春秋

 

西川さんは広島市出身で地元の中高一貫の女学校を経て早稲田の第1文学部卒業です。現在41歳独身。女優の斉藤慶子さんにどこかしら似た美人監督兼脚本家です。

西川さんといえば、2006年に「ゆれる」という映画がありました。主演がオダギリジョーとまだ新人だった真木よう子が相手役で、脇役を香川照之さんが演じました。この映画はその年の映画賞の監督賞、主演男優賞、最優秀助演男優賞、新人女優賞などなど各賞を総なめにしました。この映画の原作・脚本・監督全てを担当したのが西川さんでした。

今回紹介する「永い言い訳」は本木雅弘さんが久しぶりの主演で、本木さんの奥さん役を深津理絵さんで映画化が決定しており前評判は高く、既にクランクインしており、2016年秋公開予定とのことです。

著者の西川さんはこの「永い言い訳」でも自ら原作・脚本・監督を担当します。ていうか、実際は自ら製作したい映画の、原作を書き、脚本を書いているのです。

西川さん自身は今回の作品について次のように語っています。

「東北大震災を機に、失うということからもたらす「はじまりの物語」を書きたいと思いました。これまでオリジナルの映画を作るときは、いつも初めに原作をもとに脚本という形で物語を組み立ててきましたが、今回は予算や時間の制約という映画的な課題を一旦置いといて先に小説という形で自由に物語を作ってみることにしました。そうすることで豊かな無駄をゆっくりと熟成し、登場人物や物語を練り込む時間が取れたと思っています。小説は私の持ちうる言葉の限りで多くを語っていますが、こんどは言葉では語りえないものをいかにスクリーンに映し出すかが第2の挑戦になりそうです。映画では小説とは展開も設定も違う部分がいくつもありますが私が原作者なので、もうやりたい放題です。」

とのことです。

西川さんは東京在住の方ですが、執筆活動の際は、人からの誘いを避けて作品に24時間集中するために広島の実家に数か月間こもるのだそうです。

さて作品内容です。主人公本木雅弘演じる津村啓はテレビにも引っ張りだこのイケメンの流行作家。脱サラして作家デビューまでを支えてくれた深津理絵演じる美容師妻夏子との間には子どもはなく二人暮らし。永い結婚生活の中で既にお互いに愛情はないものの仲むつましい仮面夫婦を演じています。

津村とはペンネームで本名は衣笠幸夫という、あの野球の名選手と同じ名前だったです。このことから幼いころから、コンプレックスとなってひねくれた性格の持ち主となっていったのでした。

一方、夏子も本当の幸夫の姿を知っているだけに、売れない頃はすべての作品をチェックしていろいろアドバイスもしていたのですが、今は成功者となった幸夫のことをねたみ幸夫の描いた作品をどれもこれも嘘つきが書いた嘘だらけじゃないかと批判していたのです。

そんなある日、夏子は高校の同級生とスキーツアーに出かけます。出かけ間際に夏子はいつもどおり自宅で幸夫の髪を切り、「後片付けはお願いね」と言い、これに対して幸夫は「そのつもりだよ」と返しました。夏子は出かけ扉は閉まり、足跡は遠ざかり玄関を出ていく音がしました。それが衣笠幸夫と衣笠夏子の別れの挨拶となったのです。そう、夏子は出かけたツアーのバス事故で死んでしまうのです。

ここから物語が始まります。

なんせ幸夫は流行作家です。マスコミは騒ぎ、幸夫は遺族としての挨拶も作家として練りに練った言葉で、だれもが感動することを言わなければなりません。

その後、幸夫は夏子とともに亡くなった同級生の残された夫と二人の子どもたちと知り合います。そしてどういうわけか彼らとの奇妙な交際が始まります。

死は、残された者たちの人生に影を差し込ませる。その死の成り立ちようが痛ましければ痛ましいほど人は深く傷つき、自らを責め、生きる意欲を奪われ、その苦しみは、また別の死の呼び水ともなりうる。突然家族を失った者たちはどのように人生を取り戻すのか。この質問に対して一つの答えを与えてくれるのが本作品で感動の物語といっていいでしょう。

本作品は今年の直木賞、山本周五郎賞の候補にはなりましたが惜しくも受賞は逃しました。309頁さらっと読めます。そしていい読後感を得ることができました(了)。

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