弁護士中山の「私の一冊」

人魚姫ならぬ金魚姫はいかがですか (2015.10.15)

萩原浩(おぎわら ひろし)「金魚姫」 角川書店

 

荻原浩さんの代表作といえば「明日の記憶」ですが、その後、私はもっと感動したくて荻原さんの作品をアマゾンで片っ端から注文して読み漁りましたが、残念ながら二匹目のドジョウはいませんでした。そういうことでここ最近は荻原さんの新作は読んでいませんでした。そんな中で今回の新作「金魚姫」は、奇抜な書評にひかれて、ダメもとで読んでみました。

ところがびっくり、読んでいて本の残り頁が減ってくるラストに向けて、もちろん結末はどう結ばれるのかについての楽しみと、ちょっと待て、この物語、まだ終わってほしくないという複雑な感じがごちゃ混ぜになって、なかなかいい読後感を持つことができました。久しぶりに皆さんに対して、ご紹介に値するいい作品です。

さてその「金魚姫」です。一言でいえば奇想天外です。実は人の人生、生まれ代わりの輪廻転生の連続で、数世代にわたって因果は巡りまわっているのです。どんなに小さなことにも何気なく選んだ道にも意味があります。偶然と思えるあらゆるものが実は見えない糸でつながっているのです。それが因果なのです。はい。読んでいただければわかります。

主人公の江崎潤29歳は転職を重ねるやる気のない営業マン、その日暮らしでうつ状態に沈んでいます。会社は仏壇仏具を扱うブラック企業。土曜出勤、サービス残業は当たり前。ひたすら電話営業をかけまくって口先三寸でも仏壇仏具を売るのがお仕事です。そのためにはオレオレ詐欺顔負けのトークが必要です。そんな仕事に嫌気がさしていた潤は、一緒に暮らしていた彼女には出て行かれ、ビルの最上階からの飛び降りさえ考える毎日です

潤はある日、二日酔いのうだる暑さの部屋の中で、聞こえてくる近くの神社の夏祭りの賑わいに誘われます。その出かけた帰り、どこか高いビルはないかと思っているところに、何気なく出くわした金魚すくい屋さん。潤は金魚すくいに自らの命を懸けようと決意します。ひときわ目立つ大きな赤いまだらの金魚をすくうことに成功したら、しばらくは生きてゆこうと決めるのです。さて金魚すくい、大きな金魚なのに、どういうわけか金魚をすくうポイも破れずに、するりと金魚から飛び込んでくるように、すくい上げることができました。金魚の種類は沖縄琉球の琉から由来する琉金といいます。潤はともかくこの金魚を飼うこととして、古本屋に立ち寄り何やらとても古い金魚の飼い方を記した本を購入します。ところが、その深夜、酔った潤が目覚めると、活けていた金魚がいません。その代わりに赤い中国の古い時代の民族衣装らしき姿をした水もしたたる若い怪しげな美女があらわれます。そう、潤がすくった琉金は人魚姫ならぬ金魚姫だったのです。潤はその金魚にりゅうと名付けますが、金魚姫になったりゅうは潤が知らない間にえびせんをほおばったり、つけっぱなしのテレビから言語を学び妙な日本語を話します。そして摩訶不思議、潤が人魚姫を飼うようになってからというもの、潤には見えてはならない死者の姿が生きている人と同じように見えるようになります。そればかりか、平然とお話さえできるようになるのです。ところで、潤のお仕事は仏壇仏具販売の営業です。潤は新たな死者からの情報をもとに次第に営業成績を伸ばしていくようになります。

一方、りゅうは人間として化身している時間には限りがあるらしいのですが、自らの意思で、金魚と人間との変身を繰り返します。こうして潤とりゅうのユーモラスな生活が始まります。 どうやら中国の出自らしいりゅうは、どうして現代日本の潤の前に姿を現したのか。しかし、りゅうは過去の記憶を失っていたのでした。偶然はないのです。すべて因果の流れの中での必然だったのです。次第に記憶を取り戻していくりゅう。その結末に待っていたのは・・・てな具合ですがいかがでしょうか。

ファンタジーでありラブストーリーでもあります。今年の7月31日に角川書店から出版されました。400頁、1836円。 

なお、作者の荻原さんのプロフィールについては私の一冊(7)「明日の記憶」をご参照ください(了)。

過去のコラム

(91)  死神って本当は天使だったの?
「知念実希人 優しい死神の飼い方 光文社文庫」 (2017.10.16)

(90)  メンタルなことで仕事が行き詰っていませんか
「北川恵海 ちょっと今から仕事やめてくる メディアワークス文庫」 (2017.9.11)

(89)  池井戸ファンにおススメの一冊です。
「池井戸潤 アキラとあきら 徳間文庫」 (2017.8.22)

(88)  生まれ変わりを信じますか。
「佐藤正午さんの 月の満ち欠け 岩波書店」 (2017.7.12)

(87)  アル・カポネ,ジョン・デリンジャーといえば?
「スティーヴン・ハンター Gマン 宿命の銃弾(上・下) 扶桑社ミステリー」 (2017.6.20)

(86)  もしも過去の事実を改変できるとしたら
「梶尾真治 クロノス・ジョウンターの伝説 徳間文庫」 (2017.5.16)

(85)  もしも人間の知能を人工的に高めることができるとしたら
「ダニエル・キイス アルジャーノンに花束を ハヤカワ文庫」 (2017.4.11)

(84)  NHKさん、シュンスケを大河ドラマの主役にしてください
「門井慶喜 シュンスケ 角川文庫」 (2017.3.30)

(83)  純な気持ちでお読みください。
「住野よる 君の膵臓を食べたい 双葉社」 (2017.1.20)

(番外編)  司法修習生はどんな本を読んでいるのか
「伊坂幸太郎 サブマリン 講談社」 (2016.12.16)

(82)  ピカソのキュビズムって何?
「原田マハ 暗幕のゲルニカ 新潮社」 (2016.11.21)

(81)  家康は僻地江戸をどのように建設したのでしょうか
「門井慶喜(かどい よしのぶ) 家康、江戸を建てる 祥伝社」 (2016.10.13)

(80)  ランニングシューズ業界を覗いてみましょう
「池井戸潤 陸王 集英社」 (2016.9.9)

(79)  ピアノの調律師って?
「宮下奈都 羊と鋼の森 文藝春秋」 (2016.6.17)

(78)  人はなぜ山に登るのか
「夢枕獏 神々の山嶺(いただき) 上下巻、集英社文庫」 (2016.5.31)

(77)  ガラ携って何?
「相場英雄 ガラパゴス上・下巻 小学館」 (2016.4.11)

(76)  尖閣問題について考えてみましょう。
「青木俊 尖閣ゲーム 幻冬舎」 (2016.3.25)

(75)  宗教にはまったことはありますか。
「中村文則 教団X 集英社」 (2016.3.11)

(74)  中国にもつい100年前まで皇帝がいました。
「浅田次郎 蒼穹の昴 講談社」 (2016.1.26)

(73)  「仁義なき戦い」の菅原文太はかっこよかった。
「柚月裕子 孤狼の血 角川書店」 (2015.12.3)

(72)  どうして山に登るのか
「下村敦史 生還者 講談社」 (2015.12.3)

(71)  お互い愛情もない夫婦、そんな中、相手を突然亡くしたら・・・
「西川美和 永い言い訳 文芸春秋」 (2015.11.9)

(70)  復讐とは虚しいものですね
「ピエール・ルメートル その女アレックス 文春文庫」 (2015.10.29)

(69)  人魚姫ならぬ金魚姫はいかがですか
「萩原浩(おぎわら ひろし) 金魚姫 角川書店」 (2015.10.15)

(68)  突然、あなたの秘密が本で暴かれたら?
「ルネ・ナイト 夏の沈黙 東京創元社」 (2015.8.17)

(67)  ダビィンチには謎がいっぱい
「真保裕一 レオナルドの扉 角川書店」 (2015.8.10)

(66)  戦後の台湾をもっと知ってみたい
「東山彰良 流(りゅう) 講談社」 (2015.8.4)

(65)  産業スパイって本当にいるんですよね。
「吉田修一 森は知っている 幻冬舎」 (2015.6.3)

(64)  ライオンさん、一度でも帰国していれば・・・
「さだまさし 風に立つライオン 幻冬舎文庫」 (2015.4.15)

(63)  それでも3億円が当たってみたい。
「川村元気 億男 マガジンハウス」 (2015.4.7)

(62)  神の子は知能が優れているのでしょうか。
「薬丸岳 神の子 上・下巻 光文社」 (2015.3.25)

(61)  米軍史上最強の狙撃手の自伝です
「クリス・カイル アメリカン・スナイパー ハヤカワ文庫」 (2015.3.10)

(60)  戦隊ヒーローに憧れませんでしたか
「阿部和重・伊坂幸太郎合作 キャプテン・サンダーボルト 文藝春秋」 (2015.3.3)

(59)  裁判員裁判について勉強しよう。
「法坂一広 最終陳述 宝島社」 (2015.2.17)

(58)  死を目前にした男の生きざまとは
「殉愛 百田尚樹 幻冬舎」 (2014.11.27)

(57)  裁判官って普通の人と違うんですか
「黒木亮 法服の王国・小説裁判官(上)(下) 産経新聞出版」 (2014.10.29)

(56) 植物状態から生還したらどうなる?
「真保裕一 奇跡の人 新潮社文庫」 (2013.12.25)

(55) 時をかける手紙
「東野圭吾 ナミヤ雑貨店の奇蹟 角川書店」 (2013.12.11)

(54) 人類の世紀末を想像できますか
「極北 マーセル・セロー  中央公論新社」 (2013.12.2)

(53) パンデミックをご存じですか?
「生存者ゼロ 安生正 宝島社」 (2013.11.21)

(52) 海外で亡くなった人はどのようにして帰国するのでしょうか
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士 佐々涼子 集英社」 (2013.11.13)

(51) 倍返しと土下座で著名な半沢直樹の続編です。
「ロスジェネの逆襲 池井戸潤 ダイヤモンド社」 (2013.11.1)

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