弁護士中山の「私の一冊」

神の子は知能が優れているのでしょうか。  (2015.3.25)

薬丸岳 「神の子」上・下巻 光文社

 

今回は、薬丸岳さんの著作で「神の子」をご紹介します。薬丸さんは2005年に「天使のナイフ」で江戸川乱歩賞を受賞して作家デビューしました。「天使のナイフ」はつい最近、小出恵介さん主役でWOWOWテレビでドラマ化されました。

ちなみに「神の子」は少年事件を扱ったものですが、連日のように新聞報道で凄惨な少年事件が記事として掲載されていますが、少年、すなわち20歳未満の未成年者が犯罪を犯した場合、成年と違う扱いを受けるということはご存知でしょうか。

犯罪を犯せば、刑法によって処罰されることとなりますが、刑法に対して特別法となる少年法によって少年犯罪は特別に扱われます。またご存知のように少年犯罪の報道に当たって、少年法は少年の氏名や写真等を公表してはならないと規定しています。これには罰則がないので週刊誌は無視して掲載したりすることもままありますが・・・。

さて、まず、14歳未満の子どもが犯した刑法犯は、罪とはならず罰せられることはありません。少年院に送致されることもなく児童福祉法によって児童相談所に送致されることとなっています。国の立法政策として、14歳未満の子どもは犯罪に対する刑事責任能力がないこととされているのです。

犯人が14歳以上の場合に初めて犯罪となりますが、成人と違って、犯人が少年の場合、警察・検察が少年を逮捕勾留して捜査を終えても、そのまま刑事裁判となるのではなくて、事件はすべて家庭裁判所に送致されるのです。そこで、家庭裁判所が必要と認めれば、少年鑑別所に最大4週間収容して少年に対して、IQを調べたり、心理テストをしたりとか、あらゆる科学的角度から調査をするととも、少年が事件を犯した原因を究明しようとするのです。そうしてこれらの調査結果を参考にして、家庭裁判所において、保護処分として少年院に送致するとか、保護観察にするとかの処分を決定することとなるのです。

ただ、事案が殺人とかの重大犯罪の場合、家庭裁判所としても、もはや保護処分とするのではなくて成人と同じように刑事処分とすることが相当であるとして、当該事件を逆に検察官に送致して、成人と同じように刑事裁判にかけられる場合もあります。

こうして成人と同じ刑事裁判となるわけですが、少年法により少年はどんなにひどい事件を犯しても、事件を犯した当時の年齢が18歳未満であれば、死刑になることはありません。最も重くて無期もしくは20年以下の懲役刑となるに過ぎないのです。

少年は未成熟な故に可塑性に富んでいるといわれています。すなわち、教育次第で将来に向けて更生の可能性が極めて高いということなのです。だから成人と同じ刑罰は課さないとされているのです。

私も25年以上も前の弁護士駆け出しのころ、少年事件の付添人をよく担当していました。扱った事件の多くは、バイクの集団暴走、無免許、窃盗といったものでしたが、中には暴走族同士の抗争による殺人事件もありました。私が扱った限りでは少年の処分は、重くても少年院送致でした。事案が殺人であったとしても場合によっては、刑事裁判とならずに少年院送致となることもあるのです。

少年院へは普通は半年から1年くらい収容されれば帰って来ます。ですから世間では、処分として軽すぎる、少年法を改正すべきだとおっしゃる方も多いかと思います。

前置きが長くなりましたが作品紹介です。

「天使のナイフ」も本日紹介する「神の子」もいずれも少年事件が絡んだ内容となっています。ことに「天使のナイフ」では少年であるが故に死刑にならないことを犯人である少年自身が認識していて、これを利用して犯罪を犯しているのです。

さて「神の子」ですが、覚せい剤中毒の母から誰の子とも知れずに生まれ、出生届も出されずに育った子どもがいました。この子は、戸籍も与えられず小学校すら行かせてもらえず、およそ満足な食事も与えられず、母親とその愛人の虐待を受けながら、この社会に存在しないものとして生きてきました。

14歳となった少年は、母親の愛人をナイフで刺して家を飛び出します。18歳になって、ある殺人事件の犯人として逮捕されたことがきっかけで戸籍がないことが判明しました。

少年は少年鑑別所での調査の結果、常人離れした高い知能指数の持ち主であることがわかります。彼はそれまで義務教育を一切受けずに育ってきましたが、少年院に収容されている短期間で義務教育で習うことをすべて習得し、高卒認定試験に合格しました。そして、大学に進学します。

少年はこれまでどのようにして生きてきたのでしょうか。

少年院で彼を担当していた教官は、社会復帰後の受け入れ先を探し少年を見守り続けます。

ところが、後に彼はある犯罪組織に属していたことが判明します。 その犯罪組織の実態とは?

その組織に決別しようとする少年に降りかかる組織からの逆襲とは?

タイトルの「神の子」とは、キリスト教では文字通り神の子であるイエス・キリストのことを意味します。果たして少年は神の子の一人だったのでしょうか。といった感じですが、いかがでしょうか。

上下巻で920頁の長編です。嵌って睡眠不足にご注意を!おすすめの一冊です(了)。

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