弁護士中山の「私の一冊」

米軍史上最強の狙撃手の自伝です。  (2015.3.10)

クリス・カイル 「アメリカン・スナイパー」ハヤカワ文庫

 

今回はノンフィクションの自叙伝です。

本作品は、クリント・イーストウッド監督で映画化され、昨年12月に全米で封切りされました。福岡でも現在、上映されています。

戦争映画としては興行収入で、あのスティーブン・スピルバーク監督の「プライベートライアン」を実に17年ぶりに大きく抜いて史上最高の大ヒットとなっているそうです。

本書の著者クリス・カイルは1974年アメリカ、テキサス州オデッサに生まれ、大学を中退後、職業カウボーイを経て1999年に25歳で海軍に志願入隊しました。入隊後、訓練試験を突破してSEALに昇格し、スナイパーとなりました。

米海軍の特殊部隊SEALってご存知ですか。

2011年にあのウサマ・ビン・ラディンを殺害する作戦がありましたが、あの作戦を実施したのはSEALでした。

SEALはSEAの海、Airの空、Land陸の頭文字をとったもので海・空・陸を問わずに特殊作戦に対応できる部隊のことです。

陸軍の特殊精鋭部隊で有名なグリーン・ベレーやデルタ・フォースと並ぶものです。

SEALは海軍に入隊し、希望して2年半かけて肉体的にも精神的にも恐ろしいほど厳しいあらゆる訓練課程を経て、訓練試験にパスして初めて隊員になれるそうです。訓練での脱落率は90%を超えるとも言われています。中でも最終段階での地獄の1週間、ヘルウィークといわれる132時間ぶっ通しで行われる身体訓練が最も過酷な身体的試練となっています。どんな内容の訓練かは本書に譲ります。

カイルは2003年からイラク戦争勃発とともに4度にわたりイラクに派兵され、最激戦地といわれたファルージャ、ラマーディ、サドルシティを転戦しています。

敵側から味方を守るために敵を狙撃するスナイパーとして、公式記録史上最高の160名を狙撃のうえ殺害しました。ちなみにカイルの非公式記録としては255人とされています。

どれくらいの距離まで狙撃できると思いますか。

漫画のゴルゴ13は、M16ライフルを使用して500メートルを超える奇跡の狙撃をやっていました。が、それは過去のことです。現代の狙撃は、狙撃銃と銃弾が高性能になっていることに加えて、スコープもかなり高性能化しています。ですから平均的なスナイパーで、500メートルを優に超える狙撃をしており、クリス・カイルは奇跡ともいえる最大1920メートル先の敵を倒したことがあります。

それで味方からは史上最高のスナイパーとして「レジェンド」と呼ばれ、敵からは「ラマーディーの悪魔」と評されました。なんと敵方からその首に懸賞金が掛けられたということです。

イラク戦争はヴェトナム戦争の戦地ジャングルに潜んでいるゲリラ戦とは違い、反政府武装勢力を敵とした市街地戦でしたので敵は山のように視認することができました。戦争ですから敵と認めれば片っ端から殺戮したわけです。たとえば、敵がRPGといってバズーカ砲のようなもので攻撃して来ようとしたら、その射手を狙撃するわけです。そうすると、その武器がそこに残ります。敵にとってRPGは強力な武器ですから、それを回収しに別の兵士がやって来る。それをまた狙撃する、その繰り返しです。最後には回収に来るのは子どもだったりするわけです。だけどカイルは子どもだけは撃たなかったそうです。ちなみにカイルの初めての狙撃は手りゅう弾を持った女性だったそうですが・・・。

4度にわたる戦地経験により、何度か銃弾を受け、何度も死と隣り合わせになりました。これらの体験から心身を蝕まれ、除隊する頃には体中あちこち故障だらけでボロボロだったといいます。

たとえば、戦地から帰還するたびにリハビリのために1週間は一人でじっとしていたといいます。カイルには嫁さんがいますが、ちょっとした光や音でも戦地での記憶がフラッシュバックして、そばで寝ている嫁さんを敵と勘違いしてその首を絞めたりと大変だったそうです。

2011年、彼が除隊を希望した時、もちろん、アメリカは国家として何とか彼を引き留めようとしますが、ここに来て、彼ははじめて家族のこと優先して除隊しまたした。

彼は除隊してすぐに、彼のスポンサーとともに民間軍事訓練会社を興し、その傍らで本書を書きあげました。全米で120万部を売り上げるベストセラーとなりました。

彼は自らの経験をもとに、PTSDに悩む帰還兵や退役軍人の置かれた状態を大いに憂い、彼らの支援活動に援助を惜しみませんでした。

ちなみにアメリカのホームレスの多くが帰還兵や退役軍人であるといわれています。

本書の映画化が進められていた2013年2月、皮肉にもカイルが支援していたPTSDを患った27歳の元海兵隊員にテキサスの射撃場で射殺されます。射撃訓練の指導をしていたところ、突然の凶弾に斃れたのでした。至近距離から6発の銃弾を受けていました。

2人の小さな子を持つ38歳という若さでした。

裁判において犯人の弁護側は、犯行時心神喪失状態を主張しましたが、犯人は自ら死刑を望んだといいます。つい先日、新聞報道で裁判の結果が記事になっていました。責任能力ありと判断され「釈放のない終身刑」という判決でした。

言うまでもなく戦争は殺戮です。アメリカとしては、世界一強い国家としての威信を守るため、のちに続く志願兵を確保するため、この種の英雄は必要不可欠です。ですが、反戦派の方から見ればどう映るのでしょうか。その意味で戦費両論なのは当然だと思います。ことに、この戦争でイラクの反政府武装勢力は追放され、いま騒がれているあのイスラム国を起こしたといわれているわけですから。

文庫で496頁です。是非を論ずる前に、まずは読んでいただければと思います(了)。

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