弁護士中山の「私の一冊」

戦隊ヒーローに憧れませんでしたか  (2015.3.3)

阿部和重・伊坂幸太郎合作 「キャプテン・サンダーボルト」文藝春秋

 

  まず、作家の阿部さんはご存知ですか。作家デヴュー11年目にしてロリコン男を主人公とした「グランドフィナーレ」という作品で芥川賞を受賞されました。阿部さんの嫁さんも芥川賞作家のあの関西弁作家川上未映子さんですね。受賞作は「乳と卵(らん)」でしたね。

  伊坂さんはゴールデンスランバーをはじめとするヒット作を多発する流行作家ですね。伊坂さんは直木賞に何度もノミネートされましたが、取れずにいて毎回待つ身の苦しさを知って、彼自身もう直木賞はいらないからノミネートしないでくれって言ったことで有名ですよね。結局もう取れないんですが。

  お二人はともに東北出身で歳も阿部さんが3つ年上です。阿部さんの作品の帯書きを伊坂さんがしたことがきっかけで、2010年に、はじめて会って意気投合し、この時に合作の話が持ち上がり、次に会ったのが2011年の3月初め。この時に合作小説を書くことを合意しました。

  ところが直後の3.11大震災、伊坂さんは仙台在住で被災して一時は執筆活動を断念かとまで落ち込んでいたそうですが、この合作だけは何とかしようと執筆を再開したそうです。といいながら、相変わらず乱筆しているようですが。

  合作作品ってどうやって書き進めていくと思いますか。

  もちろん初めにアイディアを出し合って、舞台をたがいの出身地に近い東北宮城と山形に設定したとか、一応のストーリーを決めるわけですが、その後は、伊坂さんが設計図みたいなものを作って、構成を第1章から第12章までに設定して、大まかな内容を提案して、章ごとに交替で担当を決めて書いて、章案を互いに交換して手を入れあったという感じだそうです。まあ、読者としては読んでみてこの章はどっちが書いたんだなんて考えながら楽しめます。

  さて作品紹介です。

  時は現在、主人公は幼馴染の少年野球のチームメイトだった二人、現在はいずれもそれぞれの事情を抱えて落ちぶれて、お金に困り果てていました。そのうちの一人が一儲けして一発逆転をもくろんでいました。折しも友人が騙されたインチキ水を使った詐欺商法の首謀者を強請ることを考えます。舞台はホテルの一室、その部屋で呼び出した詐欺師を待っていました。相手方とは面識がなかったため、ルームナンバーを記載した紙をベルボーイに託したのでした。ところが、何の因果か時を同じくしてビジネス取引のため詐欺師とは違う相手方にルームナンバーを記載した紙を別のベルボーイに託した人がいました。果たしてルームナンバーが記載された紙はそれぞれ間違った相手に渡されることとなり、詐欺師を相手にするはずがロシア人ギャングを相手方とする大きな大きな事件に巻き込まれることとなるのです。その後、もう一人も好まざるにかかわらず事件に巻き込まれてしまいます。

  一方、太平洋戦争末期の1945年3月、一日の爆撃としては史上最大の虐殺と言われる10万人以上の無防備の一般市民の死者を出した東京大空襲の夜、米軍機300機以上のB-29爆撃機のうちたった3機が東京へのコースを外れて山形県蔵王に墜落します。この米軍機、実は大空襲とは別の目的をもって蔵王を目指したのでした。奇想天外にも東京大空襲は3機の米軍機のダミーのために敢行されたというのです。

  戦後、B29が墜落したとされる地点から至近の蔵王の火口湖で、高い致死率を有する村上レンサ球菌という細菌によって引き起こされるという村上感染症が発症します。このため、周辺各県の住民は皆、予防接種を受けることとなります。村上レンサ球菌とは何なのか、本当に存在するのでしょうか。はたまたこの細菌はアメリカ軍の細菌化学兵器だったのでしょうか。

  時は現代に戻り、数十年前に蔵王の火口付近で戦隊ヒーローものの映画撮影が行われていました。蔵王の火口付近は村上レンサ球菌が発見された地域であり立ち入り禁止区域が多くあります。そこで映画撮影が無事行われたわけですが、いざ公開となった段階で、主演ヒーロー俳優の不祥事により映画は公開中止となったのでした。

  ところが映画公開中止の本当の理由はヒーローの不祥事なんかではなく、村上感染症が深く関わっていたのでした。

  他方、感染症の謎を追う謎の女。世界同時的に発生する多発テロ事件。ついには日本でもテロ発生が危ぶまれます。

  こうして田舎の小さなちいさな恐喝事件のはずが、世界的な大事件へと変貌して行きます。何と二人はいつの間にか世界的なテロに対峙することになってしまったのでした。

  さて、日本を救うことはできるのか。てな感じでいきなり壮大なスケールに発展するのでした。

  なお、タイトルのキャプテンサンダーボルトは実在した人物です。1800年代後半、オーストラリア開拓時代の強盗でしたが、強盗をする際は決して人は殺さなかったそうです。義賊みたいに強奪したお金を民衆に振る舞ったりもしたそうです。監獄に入れたらて脱獄してもみせましたが、最後は巡査に射殺されます。このキャプテンが本編にどう関係するのかも謎です。

  たぶんこの作品は映画化されると思います。読んでいて映像化したらこのシーンはどうなるのかとか想像してみたらとても面白そうでした。全523頁です。どうぞ快感を味わってください(了)。

過去のコラム

(90)  メンタルなことで仕事が行き詰っていませんか
「北川恵海 ちょっと今から仕事やめてくる メディアワークス文庫」 (2017.9.11)

(89)  池井戸ファンにおススメの一冊です。
「池井戸潤 アキラとあきら 徳間文庫」 (2017.8.22)

(88)  生まれ変わりを信じますか。
「佐藤正午さんの 月の満ち欠け 岩波書店」 (2017.7.12)

(87)  アル・カポネ,ジョン・デリンジャーといえば?
「スティーヴン・ハンター Gマン 宿命の銃弾(上・下) 扶桑社ミステリー」 (2017.6.20)

(86)  もしも過去の事実を改変できるとしたら
「梶尾真治 クロノス・ジョウンターの伝説 徳間文庫」 (2017.5.16)

(85)  もしも人間の知能を人工的に高めることができるとしたら
「ダニエル・キイス アルジャーノンに花束を ハヤカワ文庫」 (2017.4.11)

(84)  NHKさん、シュンスケを大河ドラマの主役にしてください
「門井慶喜 シュンスケ 角川文庫」 (2017.3.30)

(83)  純な気持ちでお読みください。
「住野よる 君の膵臓を食べたい 双葉社」 (2017.1.20)

(番外編)  司法修習生はどんな本を読んでいるのか
「伊坂幸太郎 サブマリン 講談社」 (2016.12.16)

(82)  ピカソのキュビズムって何?
「原田マハ 暗幕のゲルニカ 新潮社」 (2016.11.21)

(81)  家康は僻地江戸をどのように建設したのでしょうか
「門井慶喜(かどい よしのぶ) 家康、江戸を建てる 祥伝社」 (2016.10.13)

(80)  ランニングシューズ業界を覗いてみましょう
「池井戸潤 陸王 集英社」 (2016.9.9)

(79)  ピアノの調律師って?
「宮下奈都 羊と鋼の森 文藝春秋」 (2016.6.17)

(78)  人はなぜ山に登るのか
「夢枕獏 神々の山嶺(いただき) 上下巻、集英社文庫」 (2016.5.31)

(77)  ガラ携って何?
「相場英雄 ガラパゴス上・下巻 小学館」 (2016.4.11)

(76)  尖閣問題について考えてみましょう。
「青木俊 尖閣ゲーム 幻冬舎」 (2016.3.25)

(75)  宗教にはまったことはありますか。
「中村文則 教団X 集英社」 (2016.3.11)

(74)  中国にもつい100年前まで皇帝がいました。
「浅田次郎 蒼穹の昴 講談社」 (2016.1.26)

(73)  「仁義なき戦い」の菅原文太はかっこよかった。
「柚月裕子 孤狼の血 角川書店」 (2015.12.3)

(72)  どうして山に登るのか
「下村敦史 生還者 講談社」 (2015.12.3)

(71)  お互い愛情もない夫婦、そんな中、相手を突然亡くしたら・・・
「西川美和 永い言い訳 文芸春秋」 (2015.11.9)

(70)  復讐とは虚しいものですね
「ピエール・ルメートル その女アレックス 文春文庫」 (2015.10.29)

(69)  人魚姫ならぬ金魚姫はいかがですか
「萩原浩(おぎわら ひろし) 金魚姫 角川書店」 (2015.10.15)

(68)  突然、あなたの秘密が本で暴かれたら?
「ルネ・ナイト 夏の沈黙 東京創元社」 (2015.8.17)

(67)  ダビィンチには謎がいっぱい
「真保裕一 レオナルドの扉 角川書店」 (2015.8.10)

(66)  戦後の台湾をもっと知ってみたい
「東山彰良 流(りゅう) 講談社」 (2015.8.4)

(65)  産業スパイって本当にいるんですよね。
「吉田修一 森は知っている 幻冬舎」 (2015.6.3)

(64)  ライオンさん、一度でも帰国していれば・・・
「さだまさし 風に立つライオン 幻冬舎文庫」 (2015.4.15)

(63)  それでも3億円が当たってみたい。
「川村元気 億男 マガジンハウス」 (2015.4.7)

(62)  神の子は知能が優れているのでしょうか。
「薬丸岳 神の子 上・下巻 光文社」 (2015.3.25)

(61)  米軍史上最強の狙撃手の自伝です
「クリス・カイル アメリカン・スナイパー ハヤカワ文庫」 (2015.3.10)

(60)  戦隊ヒーローに憧れませんでしたか
「阿部和重・伊坂幸太郎合作 キャプテン・サンダーボルト 文藝春秋」 (2015.3.3)

(59)  裁判員裁判について勉強しよう。
「法坂一広 最終陳述 宝島社」 (2015.2.17)

(58)  死を目前にした男の生きざまとは
「殉愛 百田尚樹 幻冬舎」 (2014.11.27)

(57)  裁判官って普通の人と違うんですか
「黒木亮 法服の王国・小説裁判官(上)(下) 産経新聞出版」 (2014.10.29)

(56) 植物状態から生還したらどうなる?
「真保裕一 奇跡の人 新潮社文庫」 (2013.12.25)

(55) 時をかける手紙
「東野圭吾 ナミヤ雑貨店の奇蹟 角川書店」 (2013.12.11)

(54) 人類の世紀末を想像できますか
「極北 マーセル・セロー  中央公論新社」 (2013.12.2)

(53) パンデミックをご存じですか?
「生存者ゼロ 安生正 宝島社」 (2013.11.21)

(52) 海外で亡くなった人はどのようにして帰国するのでしょうか
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士 佐々涼子 集英社」 (2013.11.13)

(51) 倍返しと土下座で著名な半沢直樹の続編です。
「ロスジェネの逆襲 池井戸潤 ダイヤモンド社」 (2013.11.1)

Column41-50
Column31-40
Column21-30
Column11-20
Column1-10
番外編
スコットランドゴルフ紀行

HOME › 弁護士中山の「私の一冊」

» 事務所紹介    » 業務内容    » 弁護士紹介    » 各種料金    » お問い合わせ