弁護士中山の「私の一冊」

死を目前にした男の生きざまとは  (2014.11.27)

「殉愛」  百田尚樹  幻冬舎

 

  今回はノンフィクションです。あの「海賊と呼ばれた男」「永遠のゼロ」でおなじみ、今やベストセラー作家となった百田尚樹さんの最新作です。

  やしきたかじんさんについてご存知ですか。

  彼の本職は歌手なんですが、世に出るまでには大変苦労されています。30歳間際にして歌手はもうやめようと決意して最後の記念に、いつかプロの歌手としてコンサートを開きたいと思っていた大舞台である大阪フェスティバルホールで行われた大阪大衆音楽祭の予選に出て通過パスします。予選通過は競争率500倍を超えていました。決戦当日の参加者は21組、その中には、アイ・ジョージや渚ゆう子、子門真人、小坂明子等の後のビックネームも出場していました。彼は、ここで10分近くもある「ながばなし」という曲でグランプリをとっています。そこから、歌手として本格デビューするのですが、「やっぱ好きやねん」「東京」で認知されるようになるのはさらに10年の歳月を要しました。しかし、ここからは快進撃でお笑いタレント、MC としても活躍、「たかじん胸いっぱい」「たかじんのそこまで行って委員会」「たかじんのマネーブラック」で関西の視聴率王といわれていました。

  ご存じのとおり今年の1月3日に食道がんでお亡くなりになりました。享年64歳でした。
  ところで、たかじんさんは亡くなる3か月前の昨年10月10日に32歳年下のさくらさんという女性と入籍されていたことから、その死後、多くの週刊誌やスポーツ紙がお相手の女性を非難する記事を掲載しました。いわく「遺産10億円握った結婚生活3か月疑惑の未亡人」とか「やはり遺産が目当てで…実母落胆させた32歳年下嫁の言葉」「未亡人は韓国人元ホステスだった」などなどです。

  このような記事が本当なのかどうかはこの本を読んでいただければすぐにわかりますが、一点だけ先にお教えしますと、たかじんさんはなくなる数日前に弁護士を呼んでビデオまで回して危急遺言書を作成しています。危急遺言とは死に瀕して公正証書遺言とか普通の遺言書を作成するいとまがない場合に証人2人と作成者の計3人を立ち会わせて遺言者本人から遺言内容を聞き取るというものですが、この遺言書によれば、数億に上る預金は大阪市などに全額寄付されることとなっており、さくらさんに残されたのは大阪と東京のマンションの権利その他だけでした。

  たかじんさんはそれまでにバツ2だったのですが、彼の酒の飲みっぷりと女性関係は数々の武勇伝を残しています。「新地の帝王」といわれた彼は毎晩のように飲み歩き、一つの店に5分というペースで一杯飲んでは次というペースで一晩に何十件という店を梯子をしていたといいます。明け方まで飲み歩き毎晩何十万と使い、一晩に500万円使ったこともあるといいます。

  ある日友人二人と飲み歩いているときに暴力バーにひっかかったことがあって、ビール2本飲んで5万円の請求を受けた時、彼は「お前ら暴力バーやないんか、それやのにビール2本5万円とは俺をなめてんのか、10万くらいの勘定書きもってこんかい」と言って、10万円を置いて帰ったそうです。これには、店を出るとき若い連中がずらり顔を出して頭を下げたそうです。

  彼は2回の結婚生活で一人の娘さんを設けていますが、「自分は2度と結婚はしない」と公言していました。彼は決して特定の恋人は作らず、常に10人近くの遊び相手を身の回りにおいていながらもスキャンダルになるような遊び方をしなかったのです。

  自分は60歳までに死ぬと公言し、ヘビースモーカーで酒も浴びるほど飲み「太く短く」の信条で60歳以降の人生はおまけみたいなものというのが口癖だったのです。

  そんな彼が、61歳で発病します。 実際、たかじんさんがさくらさんとはじめて出会ったのは亡くなる2年前だったのです。知り合ってほどなくたかじんさんの食道がんが発覚したのでした。ですからお二人の2年間は闘病生活の2年間だったのです。さくらさんはたかじんさんの看病にすべてをささげたといっても過言ではありません。

  本書はたかじんさんが残した膨大なメモ、さくらさんが記していた数十冊にも及ぶ看護ノート、作者自ら300時間もの取材によって得た情報をもとに記した感動の愛の物語です。私は、東京と千葉出張の移動中に読んでいたのですが、帰りの飛行機の中で本書のラストを迎えました。もちろん、お隣の乗客に知れないようにハンカチを使ってしまいました。414頁1728円です。どうかおひとりでひっそりお読みください。なお、百田尚樹さんのプルフィールについては私の一冊(20)をご参照ください(了)。

過去のコラム

(91)  死神って本当は天使だったの?
「知念実希人 優しい死神の飼い方 光文社文庫」 (2017.10.16)

(90)  メンタルなことで仕事が行き詰っていませんか
「北川恵海 ちょっと今から仕事やめてくる メディアワークス文庫」 (2017.9.11)

(89)  池井戸ファンにおススメの一冊です。
「池井戸潤 アキラとあきら 徳間文庫」 (2017.8.22)

(88)  生まれ変わりを信じますか。
「佐藤正午さんの 月の満ち欠け 岩波書店」 (2017.7.12)

(87)  アル・カポネ,ジョン・デリンジャーといえば?
「スティーヴン・ハンター Gマン 宿命の銃弾(上・下) 扶桑社ミステリー」 (2017.6.20)

(86)  もしも過去の事実を改変できるとしたら
「梶尾真治 クロノス・ジョウンターの伝説 徳間文庫」 (2017.5.16)

(85)  もしも人間の知能を人工的に高めることができるとしたら
「ダニエル・キイス アルジャーノンに花束を ハヤカワ文庫」 (2017.4.11)

(84)  NHKさん、シュンスケを大河ドラマの主役にしてください
「門井慶喜 シュンスケ 角川文庫」 (2017.3.30)

(83)  純な気持ちでお読みください。
「住野よる 君の膵臓を食べたい 双葉社」 (2017.1.20)

(番外編)  司法修習生はどんな本を読んでいるのか
「伊坂幸太郎 サブマリン 講談社」 (2016.12.16)

(82)  ピカソのキュビズムって何?
「原田マハ 暗幕のゲルニカ 新潮社」 (2016.11.21)

(81)  家康は僻地江戸をどのように建設したのでしょうか
「門井慶喜(かどい よしのぶ) 家康、江戸を建てる 祥伝社」 (2016.10.13)

(80)  ランニングシューズ業界を覗いてみましょう
「池井戸潤 陸王 集英社」 (2016.9.9)

(79)  ピアノの調律師って?
「宮下奈都 羊と鋼の森 文藝春秋」 (2016.6.17)

(78)  人はなぜ山に登るのか
「夢枕獏 神々の山嶺(いただき) 上下巻、集英社文庫」 (2016.5.31)

(77)  ガラ携って何?
「相場英雄 ガラパゴス上・下巻 小学館」 (2016.4.11)

(76)  尖閣問題について考えてみましょう。
「青木俊 尖閣ゲーム 幻冬舎」 (2016.3.25)

(75)  宗教にはまったことはありますか。
「中村文則 教団X 集英社」 (2016.3.11)

(74)  中国にもつい100年前まで皇帝がいました。
「浅田次郎 蒼穹の昴 講談社」 (2016.1.26)

(73)  「仁義なき戦い」の菅原文太はかっこよかった。
「柚月裕子 孤狼の血 角川書店」 (2015.12.3)

(72)  どうして山に登るのか
「下村敦史 生還者 講談社」 (2015.12.3)

(71)  お互い愛情もない夫婦、そんな中、相手を突然亡くしたら・・・
「西川美和 永い言い訳 文芸春秋」 (2015.11.9)

(70)  復讐とは虚しいものですね
「ピエール・ルメートル その女アレックス 文春文庫」 (2015.10.29)

(69)  人魚姫ならぬ金魚姫はいかがですか
「萩原浩(おぎわら ひろし) 金魚姫 角川書店」 (2015.10.15)

(68)  突然、あなたの秘密が本で暴かれたら?
「ルネ・ナイト 夏の沈黙 東京創元社」 (2015.8.17)

(67)  ダビィンチには謎がいっぱい
「真保裕一 レオナルドの扉 角川書店」 (2015.8.10)

(66)  戦後の台湾をもっと知ってみたい
「東山彰良 流(りゅう) 講談社」 (2015.8.4)

(65)  産業スパイって本当にいるんですよね。
「吉田修一 森は知っている 幻冬舎」 (2015.6.3)

(64)  ライオンさん、一度でも帰国していれば・・・
「さだまさし 風に立つライオン 幻冬舎文庫」 (2015.4.15)

(63)  それでも3億円が当たってみたい。
「川村元気 億男 マガジンハウス」 (2015.4.7)

(62)  神の子は知能が優れているのでしょうか。
「薬丸岳 神の子 上・下巻 光文社」 (2015.3.25)

(61)  米軍史上最強の狙撃手の自伝です
「クリス・カイル アメリカン・スナイパー ハヤカワ文庫」 (2015.3.10)

(60)  戦隊ヒーローに憧れませんでしたか
「阿部和重・伊坂幸太郎合作 キャプテン・サンダーボルト 文藝春秋」 (2015.3.3)

(59)  裁判員裁判について勉強しよう。
「法坂一広 最終陳述 宝島社」 (2015.2.17)

(58)  死を目前にした男の生きざまとは
「殉愛 百田尚樹 幻冬舎」 (2014.11.27)

(57)  裁判官って普通の人と違うんですか
「黒木亮 法服の王国・小説裁判官(上)(下) 産経新聞出版」 (2014.10.29)

(56) 植物状態から生還したらどうなる?
「真保裕一 奇跡の人 新潮社文庫」 (2013.12.25)

(55) 時をかける手紙
「東野圭吾 ナミヤ雑貨店の奇蹟 角川書店」 (2013.12.11)

(54) 人類の世紀末を想像できますか
「極北 マーセル・セロー  中央公論新社」 (2013.12.2)

(53) パンデミックをご存じですか?
「生存者ゼロ 安生正 宝島社」 (2013.11.21)

(52) 海外で亡くなった人はどのようにして帰国するのでしょうか
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士 佐々涼子 集英社」 (2013.11.13)

(51) 倍返しと土下座で著名な半沢直樹の続編です。
「ロスジェネの逆襲 池井戸潤 ダイヤモンド社」 (2013.11.1)

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