弁護士中山の「私の一冊」

裁判官って普通の人と違うんですか (2014.10.29)

「法服の王国・小説裁判官」(上)(下)黒木亮 産経新聞出版

 

  裁判官を含め、法曹(裁判官・検察官・弁護士)になるためには司法試験に合格して現在では一年間の司法修習を経て、2回試験といわれる卒業試験に合格することが必要です。弁護士の場合は弁護士会に入会金を支払って登録すれば即弁護士として業務を開始することができますが、裁判官の場合は最高裁の選考にパスすることが必要です。

  ところで、まず司法試験ですが、この試験を受けるためには普通に大学を卒業して大学院であるロースクールに入学して卒業すれば、司法試験の受験資格ができます。

  今年の司法試験の受験者は約8000人でした。合格者は約1800人で合格率は22%でした。ちなみに私は4回も受験して昭和60年に合格しましたが、その年の受験者は2万人を超えていて合格者は約500人、合格率は約2%ちょっとでした。もちろん当時、ロースクール制度はありませんでした。

  当時と比較しても合格者は500〜1800へと大幅な増員となっているわけですが、裁判官の新規採用定員は何と昔も今もほとんど変化なく年間約100名程度となっています。昔は優秀でなければ裁判官になれませんでしたし、今もそれは同じです。

  裁判官を志望するのであれば、手っ取り早く、大学もロースクールも現役で進級して司法試験も1回でパスすれば、ほぼオッケイといったところでしょうか。もちろん最短コースではなくても司法試験で上位合格すればもちろんオッケイです。

  さて、裁判官の生活実態です・・・法廷では黒い法服に身を包み、ポーカーフェイスを崩さない裁判官。任官するとはじめは判事補となり、司法の公正を保つため3年に一度転勤を重ね、10年で一人前の正判事になります。一人前の判事になれば裁判長になって自ら単独の判断で事件を裁くことになるのです。

  私生活では外に出て裁判官である身分を公にすることはなく、居酒屋に行くにも事件当事者とばったりと出くわすことがあってはなりません。人知れず秘密の飲み屋にひっそりと行くのです。我々同期と飲むにも事前にお上に届け出をすることが必要ですし、酒の席では決して自ら関与した事件のことは語らないのが建前です。飲み代もきっちり割り勘です。

  さて、作品です。主人公は複数いますがメインとなるのはタイトル通り裁判官です。その中の一人、東大出身で優秀な成績で司法試験にパスした津崎は後に最高裁長官になる弓削に見込まれます。裁判官に任官以来、エリートコースに乗り最高裁事務総局入りを果たし、司法行政の一旦をつかさどるのです。

  そうして、最高裁調査官、東京地裁裁判長と順調に出世階段を上っていきます。

  一方、同期の私立大学出の裁判官村木は、受験時代から志高く、任官後まもなく革新系組織である青年法律家協会に所属します。これに対して、政治的中立を要求して忌み嫌う最高裁から目をつけられ地方に飛ばされます。

  しかし、村木は地方の現場組裁判官としてひとり司法の独立を背景として、最高裁の圧力に屈することなく公正な裁判をめざし、やがて原発訴訟に深くかかわります。

  ここには裁判官の人間ドラマが描かれています。裁判官といえど一皮むけば保身と出世のはざまで揺れる生身の人間です。著者の黒木さんは本作品執筆にあたり最高裁事務総局の現職裁判官を含む多くの法曹関係者に取材を行っています。

  作品は、戦後の自衛隊訴訟、原発訴訟、近くは裁判員裁判などの裁判の歴史をもとに実在した事件、人物の多くをベースにして仕立てられており、日本の司法裁判の問題を鋭く提起する準ノンフィクション小説に仕上がっています。

  上下巻830頁3888円です。たまにはこんな世界をのぞいてみるのも悪くありません(了)。

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(51) 倍返しと土下座で著名な半沢直樹の続編です。
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