弁護士中山の「私の一冊」

時をかける手紙 (2013.12.11)

「ナミヤ雑貨店の奇蹟」東野圭吾 角川書店

 

  東野さんといえば,いまや新作を出せば超売れるベストセラー作家ですが,福山雅治と堤真一で映画化された「容疑者Xの献身」が直木賞及び本格ミステリ大賞のダブル受賞を果たしたのは2006年のことでした。
  その後,同作品(英語版)はアメリカでも出版され売れました。ついでにアメリカの長編推理小説の分野で権威あるエドガー賞の2012年の最優秀小説賞にノミネートされました。日本人として史上初でしたが,残念ながら受賞は逃しました。

  東野さんの作品は,私の過去のコラム(24)「何が秘密だったのか」で「秘密」をご紹介しました。1985年に27歳で「放課後」で江戸川乱歩賞を受賞して作家デビューしましたが,その後しばらくは恵まれず,98年に「秘密」で大ブレイクしました。同作品は事故で死んだ母親の精神が生き残った娘に宿るという奇想天外なストーりーでした。東野さんはミステリのほか,SFも得意としています。タイムスリップする時空ものや,死者の人格・魂が生きている人に宿るとかいったものです。

  今回紹介する「ナミヤ百貨店の奇蹟」も時空ものです。

  タイムスリップを題材にした小説は,古くは筒井康隆さんの「時をかける少女」など数多くありますが,たいていは人が過去にタイムスリップするというのが定番となっています。過去において未来の知識を生かして何らかの活躍をして,最後には過去から現在に帰って来るというものです。
  しかして,本作品で時空を駆け巡るのは人ではありません。何と手紙なのです。つまり,現在と過去を結ぶ特別のポストがあって,それを介して手紙が過去と未来との時空を駆けめぐるのです。

  さて,タイトルとなっているナミヤ雑貨店がそもそものの舞台です。老店主は小さな町で雑貨店経営の傍ら,趣味で悩み事相談をはじめました。その相談方法とは,相談者から人知れずペンネームで雑貨店の裏口のシャッターの郵便受口に相談内容を記載した手紙を投函してもらうのです。すると老店主は,シャッターの横に設置してある牛乳箱に返事を返すわけです。
  ここには様々な相談が寄せられてきます。小学生の「勉強せずにテストで百点取るにはどうしたらいいか」という軽いものから「交際している男性の子を妊娠してしまったけれど,相手が妻帯者なので迷っているとか」シリアスなものまでいろいろです。
  回答は実に真摯であり,その評判からマスコミにも取り上げられ好評でした。

  時を経てナミヤ雑貨店も老店主の引退とともに閉店されます。
  ナミヤ雑貨店はいつしかあばら家となって放置されたままとなっていました。
  ここにひょんなことから3人組の強盗犯が,逃走途中の隠れ家として潜伏することとなります。
  ところが,犯人グループの一人が何気なく裏口のシャッターの郵便受口をみたところ,いつのまにかそこに手紙が投函されていたのでした。ついつい封を開けてみるとそれは相談ごとを記載した手紙だったのです。犯人は好奇心と暇つぶしもあってこれに真面目に回答し,何気なく牛乳箱に入れてしまいます。するとあら不思議,再びシャッターの郵便受口に手紙が・・・。こうして奇妙な文通がはじまります。さらに別の相談が投函されます。
  この相談の手紙,実は過去から届いたものだったのです。一方,相談者にとって返信される回答は未来からの回答なのですが,相談者も回答者もそのことを知りません。
  ところで考えてみたら,過去からの相談に未来から答えられるのなら,その間に起こった歴史的事実は回答者にとっては公知の事実ですから的確なアドバイスができるのは当然ということになりませんか。
  さておき,一体全体どういうことで犯人グループの許に相談が届けられるようになったのでしょうか。
  ネタバレではありませんが実は,すべての相談者と犯人たちとの間には意外な因縁があったのでした。隠されていた因縁とは何か。ラストに向けて次第に明るみになる事実。物語が完結するとき人知を越えた真実が明らかになります。

  確かな驚愕と感動,私のように優しい人には涙間違いなしの一冊です(了)。

過去のコラム

(91)  死神って本当は天使だったの?
「知念実希人 優しい死神の飼い方 光文社文庫」 (2017.10.16)

(90)  メンタルなことで仕事が行き詰っていませんか
「北川恵海 ちょっと今から仕事やめてくる メディアワークス文庫」 (2017.9.11)

(89)  池井戸ファンにおススメの一冊です。
「池井戸潤 アキラとあきら 徳間文庫」 (2017.8.22)

(88)  生まれ変わりを信じますか。
「佐藤正午さんの 月の満ち欠け 岩波書店」 (2017.7.12)

(87)  アル・カポネ,ジョン・デリンジャーといえば?
「スティーヴン・ハンター Gマン 宿命の銃弾(上・下) 扶桑社ミステリー」 (2017.6.20)

(86)  もしも過去の事実を改変できるとしたら
「梶尾真治 クロノス・ジョウンターの伝説 徳間文庫」 (2017.5.16)

(85)  もしも人間の知能を人工的に高めることができるとしたら
「ダニエル・キイス アルジャーノンに花束を ハヤカワ文庫」 (2017.4.11)

(84)  NHKさん、シュンスケを大河ドラマの主役にしてください
「門井慶喜 シュンスケ 角川文庫」 (2017.3.30)

(83)  純な気持ちでお読みください。
「住野よる 君の膵臓を食べたい 双葉社」 (2017.1.20)

(番外編)  司法修習生はどんな本を読んでいるのか
「伊坂幸太郎 サブマリン 講談社」 (2016.12.16)

(82)  ピカソのキュビズムって何?
「原田マハ 暗幕のゲルニカ 新潮社」 (2016.11.21)

(81)  家康は僻地江戸をどのように建設したのでしょうか
「門井慶喜(かどい よしのぶ) 家康、江戸を建てる 祥伝社」 (2016.10.13)

(80)  ランニングシューズ業界を覗いてみましょう
「池井戸潤 陸王 集英社」 (2016.9.9)

(79)  ピアノの調律師って?
「宮下奈都 羊と鋼の森 文藝春秋」 (2016.6.17)

(78)  人はなぜ山に登るのか
「夢枕獏 神々の山嶺(いただき) 上下巻、集英社文庫」 (2016.5.31)

(77)  ガラ携って何?
「相場英雄 ガラパゴス上・下巻 小学館」 (2016.4.11)

(76)  尖閣問題について考えてみましょう。
「青木俊 尖閣ゲーム 幻冬舎」 (2016.3.25)

(75)  宗教にはまったことはありますか。
「中村文則 教団X 集英社」 (2016.3.11)

(74)  中国にもつい100年前まで皇帝がいました。
「浅田次郎 蒼穹の昴 講談社」 (2016.1.26)

(73)  「仁義なき戦い」の菅原文太はかっこよかった。
「柚月裕子 孤狼の血 角川書店」 (2015.12.3)

(72)  どうして山に登るのか
「下村敦史 生還者 講談社」 (2015.12.3)

(71)  お互い愛情もない夫婦、そんな中、相手を突然亡くしたら・・・
「西川美和 永い言い訳 文芸春秋」 (2015.11.9)

(70)  復讐とは虚しいものですね
「ピエール・ルメートル その女アレックス 文春文庫」 (2015.10.29)

(69)  人魚姫ならぬ金魚姫はいかがですか
「萩原浩(おぎわら ひろし) 金魚姫 角川書店」 (2015.10.15)

(68)  突然、あなたの秘密が本で暴かれたら?
「ルネ・ナイト 夏の沈黙 東京創元社」 (2015.8.17)

(67)  ダビィンチには謎がいっぱい
「真保裕一 レオナルドの扉 角川書店」 (2015.8.10)

(66)  戦後の台湾をもっと知ってみたい
「東山彰良 流(りゅう) 講談社」 (2015.8.4)

(65)  産業スパイって本当にいるんですよね。
「吉田修一 森は知っている 幻冬舎」 (2015.6.3)

(64)  ライオンさん、一度でも帰国していれば・・・
「さだまさし 風に立つライオン 幻冬舎文庫」 (2015.4.15)

(63)  それでも3億円が当たってみたい。
「川村元気 億男 マガジンハウス」 (2015.4.7)

(62)  神の子は知能が優れているのでしょうか。
「薬丸岳 神の子 上・下巻 光文社」 (2015.3.25)

(61)  米軍史上最強の狙撃手の自伝です
「クリス・カイル アメリカン・スナイパー ハヤカワ文庫」 (2015.3.10)

(60)  戦隊ヒーローに憧れませんでしたか
「阿部和重・伊坂幸太郎合作 キャプテン・サンダーボルト 文藝春秋」 (2015.3.3)

(59)  裁判員裁判について勉強しよう。
「法坂一広 最終陳述 宝島社」 (2015.2.17)

(58)  死を目前にした男の生きざまとは
「殉愛 百田尚樹 幻冬舎」 (2014.11.27)

(57)  裁判官って普通の人と違うんですか
「黒木亮 法服の王国・小説裁判官(上)(下) 産経新聞出版」 (2014.10.29)

(56) 植物状態から生還したらどうなる?
「真保裕一 奇跡の人 新潮社文庫」 (2013.12.25)

(55) 時をかける手紙
「東野圭吾 ナミヤ雑貨店の奇蹟 角川書店」 (2013.12.11)

(54) 人類の世紀末を想像できますか
「極北 マーセル・セロー  中央公論新社」 (2013.12.2)

(53) パンデミックをご存じですか?
「生存者ゼロ 安生正 宝島社」 (2013.11.21)

(52) 海外で亡くなった人はどのようにして帰国するのでしょうか
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士 佐々涼子 集英社」 (2013.11.13)

(51) 倍返しと土下座で著名な半沢直樹の続編です。
「ロスジェネの逆襲 池井戸潤 ダイヤモンド社」 (2013.11.1)

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番外編
スコットランドゴルフ紀行

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