弁護士中山の「私の一冊」

司法ミステリーもいいですね。 (2013.1.29)

「検事の本懐」柚月裕子 宝島社

 

  本作品は5本の短編からなる連作検事ミステリーです。
  本作品を楽しんでいただくため,法曹資格について少し説明させてください。
  法曹になるためには難関といわれる司法試験にパスしなければなりません。そして合格しても実務家になるためには司法修習生として一年間の司法修習を受けなければなりません。この司法修習期間に裁判官,検察官,弁護士のお仕事について実務研修を受けるわけです。そうして,終了後に卒業試験を受けてこれに合格すれば晴れて実務家になれるわけです。

 

  弁護士の場合は,合格すれば日本弁護士連合会に弁護士登録すれば,弁護士業務を行うことが出来るようになりますが,裁判官や検察官になるためには,誰でも希望すればなれるということではありません。
  司法試験の成績はもちろん,司法修習期間中の成績,卒業試験の成績,素行その他を資料として選考により決まります。その結果,希望しても不採用となることもあるわけで事実,毎年数名が任官拒否されているのです。
  ちなみに1年間の司法修習修了者約2100名のうち,裁判官,検察官は年間でそれぞれ100名未満が採用され,残りの約1900名のほとんどが弁護士になっているのが実情です。ただ,法曹としての資格は共通ですので,判事や検事を辞めて弁護士になることはもちろん,逆に弁護士から判事や検事になることも可能です。

 

  さて,作品です。主人公は司法修習終了後,検察官に任官して3年目の新人佐方貞人。広島県出身,母を早くに亡くし,弁護士を父に持つも,父は,佐方が中学生の時に,顧客の金を横領したとして業務上横領の罪で懲役2年の実刑判決を受け,服役中に死亡しています。
  佐方のスタイルはいつもぼさぼさの髪,しわくちゃのワイシャツ,よれよれのスーツという出で立ち。無愛想ながらも事件に対して確かな目を持ち将来を嘱望されている検察官です。そんな佐方が挑む5つの事件の事件帳です。

 

  さて,検察官は警察から事件の送致を受けて,身柄事件であれば最大20日間に及ぶ被疑者の勾留期間中に取り調べをして,起訴して刑事裁判を求めるのか,それとも不起訴ないしは起訴猶予として被疑者を釈放するのかを決めるわけですが,作品ではこれらの手続が法的にも正確に描かれています。

 

  信じられないことですが,新聞報道でも明らかなとおり,警察国家権力内部において刑事事件のもみ消し,証拠ねつ造があり得ることはご存じのとおりです。
  しかし,たった1件であろうとも,えん罪は決してあってはならないことです。
  結局のところ,えん罪はまずは警察検察が型にはめた事件を作って,それを弁護士と裁判所が裁判手続で上塗りしてできあがりとなるのですが,本作品の佐方検事にかかれば心配ありません。検事が被疑者の立場でここまでやってくれるのというくらいに見事に捌いてくれます。その捜査の丹念さには目を見張るものがあり,今の日本に本当に佐方検事のような検事がいてくれたらなあなんて希望を持ってしまいます。
  また,本作品の連作の最終話の「本懐を知る」では,どうして佐方の父が業務上横領に問われなければならなかったのかについても謎解きがされており,読者をして納得いくものとなっています。
という感じですがいかがでしょうか。

 

  実は,本作品の前に,著者は同じ佐方を主人公として「最後の証人」という作品を宝島社から出版していますが,この最後の証人では佐方検事が,検事を辞めた後,刑事弁護士となって活躍するというストーリーとなっています。
  ですから作品の順番からいえば先に「最後の証人」で検事を辞めて弁護士に転身した佐方を描いてその後に,「検事の本懐」で佐方の検事時代のことを振り返ってストーリー化したということになります。

 

  当然こっちも読んでみました。弁護士として裁判員裁判で無罪事件に挑む法廷ミステリーなのですが,「趣味は読書」の私の推理をことごとく覆す全くの予想外のおもしろさで,一気に読まされてしまいました。どちらからでもいいですが,是非2冊ともお読みください。

 

  作者は2008年に「臨床心理」という作品で「このミステリーがすごい大賞」を受賞,40歳にして作家デビューを果たしました。 この方は岩手出身で現在は山形暮らしの44歳の主婦というほかは,その略歴は公表されておらず不祥ですが顔写真は公開されており・・・とても美人です(了)。

過去のコラム

(108)   理想の検察官とは・・・司法ミステリー
「柚月裕子 検事の信義 角川書店」 (2019.6.12)

(107)   子どもたちは世渡り上手にならざるを得ません。
「瀬尾まいこ そして、バトンは渡された 文藝春秋」 (2019.6.6)

(106)   かみさんのこと理不尽だと思ったことありませんか。
「黒川伊保子 妻のトリセツ 講談社+α新書」 (2019.5.9)

(105)   宝島、沖縄の宝とは?
「真藤順丈 宝島 早川書房」 (2019.4.1)

(104)   現実化しているサイバーテロ
「ビル・クリントン&ジェイムス・パターソン共著 大統領失踪 上下巻 早川書房」 (2019.2.12)

(103)   我々はどこから来て、どこに行くのか
「ダン・ブラウン オリジン 上・下巻 角川書店」 (2019.1.30)

(102)   南米ペルーにはまだ先住民がいます
「国分 拓 ノモレ 新潮社」 (2018.12.14)

(101)   一億円ポンと手に入ったらどうしますか?
「白石一文 一億円のさようなら 徳間書店」 (2018.11.14)

(100)   将棋界を覗いてみませんか
「瀬川昌司 泣き虫しょったんの奇跡 完全版 講談社文庫」 (2018.10.16)

(99)  傑作長編時代小説です
「葉室麟 散り椿 角川文庫」 (2018.9.12)

(98)  あなただったら、不治の病とどう向き合いますか?
「二宮敦人 最後の医者は雨上がりの空に君を願う上下巻 Toブックス」 (2018.8.9)

(97)  フォーサイスの真実とは?
「フレデリック・フォーサイス アウトサイダー 陰謀の中の人生 角川書店」 (2018.6.25)

(96)  ジャパニーズウィスキーの発祥って?
「伊集院静 琥珀の夢 小説鳥井信治郎 上・下巻 集英社」 (2018.5.23)

(95)  宮澤賢治のイメージが変わるかもしれません。
「門井慶喜 銀河鉄道の父 講談社」 (2018.2.16)

(94)  ズバリ!! 明治維新の立役者西郷吉之助です。
「林真理子 西郷(せご)どん 角川書店」 (2018.1.15)

(93)  フィンセント・ファン・ゴッホの真実とは
「原田マハ たゆたえども沈まず 幻冬舎」 (2017.12.11)

(92)  ノーベル文学賞作家の作品を読んでみませんか。
「カズオ・イシグロ 私を離さないで ハヤカワ文庫」 (2017.11.28)

(91)  死神って本当は天使だったの?
「知念実希人 優しい死神の飼い方 光文社文庫」 (2017.10.16)

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(90)  メンタルなことで仕事が行き詰っていませんか
「北川恵海 ちょっと今から仕事やめてくる メディアワークス文庫」 (2017.9.11)

(89)  池井戸ファンにおススメの一冊です。
「池井戸潤 アキラとあきら 徳間文庫」 (2017.8.22)

(88)  生まれ変わりを信じますか。
「佐藤正午さんの 月の満ち欠け 岩波書店」 (2017.7.12)

(87)  アル・カポネ,ジョン・デリンジャーといえば?
「スティーヴン・ハンター Gマン 宿命の銃弾(上・下) 扶桑社ミステリー」 (2017.6.20)

(86)  もしも過去の事実を改変できるとしたら
「梶尾真治 クロノス・ジョウンターの伝説 徳間文庫」 (2017.5.16)

(85)  もしも人間の知能を人工的に高めることができるとしたら
「ダニエル・キイス アルジャーノンに花束を ハヤカワ文庫」 (2017.4.11)

(84)  NHKさん、シュンスケを大河ドラマの主役にしてください
「門井慶喜 シュンスケ 角川文庫」 (2017.3.30)

(83)  純な気持ちでお読みください。
「住野よる 君の膵臓を食べたい 双葉社」 (2017.1.20)

(番外編)  司法修習生はどんな本を読んでいるのか
「伊坂幸太郎 サブマリン 講談社」 (2016.12.16)

(82)  ピカソのキュビズムって何?
「原田マハ 暗幕のゲルニカ 新潮社」 (2016.11.21)

(81)  家康は僻地江戸をどのように建設したのでしょうか
「門井慶喜(かどい よしのぶ) 家康、江戸を建てる 祥伝社」 (2016.10.13)

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番外編
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