弁護士中山の「私の一冊」

わたしの神様 (2012.11.29)

「神様のカルテ」「神様のカルテ2」「神様のカルテ3」夏川草介 小学館

 

  世に人の不幸を契機若しくは対象として,これを生業(なりわい)とするお仕事は思いつくだけでも三つあります。答えは医者,弁護士とお坊さんです。お医者さんは人の病に,弁護士は人のトラブルに,お坊さんは人の死後に関わります。いずれも人の不幸といえますよね。弁護士の仕事は,普通に考えて人の生死を左右することはまずありませんが,医師は大変です。もちろん,ケースによっても異なりますが,誤診が即,人の生き死に関わることにもなりかねないからです。意外にもこれら三者は身分関係で密接な場合が多いんです。知り合いの弁護士の実家がお寺で,兄弟は医者をやってるとかですね。不思議と実際,そのような同業者は結構います。

  さて作者の夏川さんは1978年生まれ,現在34歳で若き現役医師です。2009年に31歳にして「神様のカルテ」で作家デビューを果たし,小学館文庫小説賞受賞,さらに翌年の本屋大賞2位を受賞しています。ということでデビュー1作目にしてたくさん売れましたので,2010年に続編の2作目,これがまた売れまして1・2で併せて,ご本人もびっくりの218万部だそうです。印税収入凄そうですね。とまれ,三匹目のドジョウということで第3作目が出ました。それでワンセットでご紹介いたします。

  昨年1作目が映画化されたのですがご存じでしょうか。若い人たちに大人気派の櫻井翔と宮崎あおいが主演,中学高校を中心に大ヒットしたそうです。
  作品は,タイトルどおりでして,医者が書いた医者の話ということですが,どんなのを想像されますか?

  ストーリーです。主人公栗原いちとは信州大学医学部を卒業した5年目の内科医です。彼は漱石をこよなく愛する文学青年で,ポケットにはいつも「草枕」の文庫本がが入っており,もうぼろぼろになっていて暗唱しているほどです。漱石の影響を意図的に受けまくっており,話し言葉も漱石かぶれしています。オマケに「坊っちゃん」ではありませんが,人に渾名をつけるのが特技です。例えば,内科部長は大狸先生とか,副部長は古狐先生とかそのたもろもろです。ということで当然ながら周囲からは奇人扱いされていますが,本人には全く自覚がないことが笑わせます。既婚で嫁さんはどういうわけか世界中を股に掛ける山岳カメラマンという設定です。この妻がまたありえないほどに良妻なのが,悔しいくらいです。

  舞台は信州松本にある本庄病院です。この病院は地域医療を担い,「365日24時間」という電光表示板を出している民間の大きな病院です。信州大学医学部と人事交流があります。看板の通りの年中無休ですから,勢いここで勤務する医者は3日も寝ないことも常態化しています。ことにいちとは看護師から「引きの栗原」と呼ばれ,どういうわけか彼が当直勤務した夜は,救急患者が記録的に押し寄せるのでした。そんないちとは,出身大学の医局に戻るように誘われており,地域に先進医療を取り入れることの必要性を痛感して迷っていました。折しも,いちとは大学病院が拒否する手遅れのガン患者を担当することになります・・・。というように,医療現場のあたりまえの日常の有り様が描かれているのですが,いちとの言葉にかかると真っ直ぐで温かく,それでいて人生の辛さ悲しさがにじみ,ついつい涙する物語となっているのです。2作目3作目ではそれぞれ,本庄病院に新任医師が赴任し,新たな登場人物を加えてその人物を絡めてこれまた意表をついたストーリー展開となってきます。
  私の率直な感想としては,それにしても「えっ,本当に本当かいな,お医者さんとはこんなにも急がしいの」って感じでびっくりです。

  作品の文章力などはとても,素人っぽい感じですが,読んだ人をして「いままでこんなオモシロイ本を読まずにいたなんて,自分でもあきれてしまいます」と言わせる本です。子どもたちにも安心してオススメできます。特に一作目が新鮮で衝撃でした。三冊で合計899頁です。いかがでしょうか。売れているが故に多分4作目も準備されているのだと推測しますが,当のご本人は,現在も信州大学の医局におられ,家族から,小説を書く暇があったら寝なさいと言われているそうです。
  最後に,漱石の「草枕」からの引用で,わたしの好きなフレーズを紹介します。

「あせってはいけません,ただ牛のように図々しく進んでいくのが大事です」

私もかくありたい。(了)。

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(51) 倍返しと土下座で著名な半沢直樹の続編です。
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