弁護士中山の「私の一冊」

司法修習生の置土産 (2012.11.19)

加藤嘉一 遠くて近い隣国「われ日本海の橋とならん」ダイアモンド社

 

  今回は,私のもとでこの9月まで弁護修習をしていた北原司法修習生が残していった「私の一冊」をご紹介することとします。司法修習生のことについては,私の一冊(21)(22)の間に番外編として「司法修習生は「私の一冊」を読まなかったのか」の回で詳しく説明していますのでその箇所をご参照ください。北原君は,慶大の法学部,東大のロースクール(既習コース)をストレートで通過して,1回目の司法試験にパスした秀才です。修習修了後は裁判官としてスタートすることとなっています。彼は未だ26歳なのに,誰とでもでも巧くつきあえる社交性に富んでいて,いまどきの若者には珍しく落ち着きを兼ね備えた好青年というのが私の印象でした。彼の栄えある将来を祈念して,以下に彼の置土産を原文まま掲載します。

  あなたは「中国」という国にどのようなイメージを持っているだろうか。急激な経済成長を遂げたが,未だに生活水準の低い人々もたくさんいる。観光地で人一倍大きな声で集団行動をしているかと思えば,ニュースでは最先端のビジネスを手がけるエリートがしゃべっている。政治体制も日本と異なっていることは知っているが,今ひとつ内情は掴めない。街に中華料理屋がたくさんあっても,中国で実際何が食べられているのかはよくわからない。このように中国に対しては,何か得体の知れない「鵺」の様なイメージをもっている人も多いのではないだろうか。

  私は,中国と言えば中国旅行をしたときのことを鮮明に思い出す。10年近く前のことになるが,大学に入ったばかりの私は,中国語の先生に連れられて湖北省を中心に1週間ほど滞在したのである。海外に行くのが初めてだったこともあるだろうが,とにかく私は見るもの全てに驚かされた。上海の発展ぶりには目を見張ったし,田舎では未だに生肉を露天で売っていたりもした。また,様々な中国人に会うことで中国に対するイメージがかなり変わった。武漢大学の教授には,日本の若者に頑張ってもらいたいという暖かいお言葉を頂いたし,舗装もされていない田舎の子どもたちと英語で会話をしてその屈託のない笑顔に癒しをもらったりもした。

  「中国」とひとかたまりで見ていたときにはそこにどのような人々が住んでいるかという点には意識が行っていなかったが,実際に町の「空気感」を体感することでかの国にも「普通の人々」が住んでいることがわかったし,そのような理解を前提として中国関係のニュースを見ると,また違った見方ができるようになるのではないかとも思うようになった。

  この本の著者は,日本の高校から北京大学に進学していたところ,偶然テレビのインタビューを受ける機会があり,そこから中国国内での言論活動をスタートさせたという経歴の持ち主である。多数の本を出版し,そのブログは国家主席も見ているという大物であるが,まだ20代後半,私と2つしかかわらない若者である。

  『われ日本海の橋とならん』は,そんな彼が,日本の若者に向けたメッセージである。本の内容は,大きく分けると,彼が如何にして中国で発言ができる有名人となったかということと,そのような彼から見た中国の現在である。前半の彼のキャリアについては,私のような僻み者からすれば凄すぎて到底真似できないと思ってしまう内容ではあるが,中国語を覚えるために毎日新聞を暗唱し,ほんの数ヶ月で中国語を習得した等というエピソードからはハングリー精神の大切さを学ばされた。

  しかし,一番興味深いのは,そんな彼から見た中国のリアルである。対日問題を,中国の政府は,市民はどのように捉えているのか,チャイナリスクとは一体何なのか。彼なりの観察の結果が,簡潔な文章の中にふんだんに盛り込まれている。中国がどのように日本を捉えているのかを知るだけで,ニュースの見方は大きく変わる。近時は領土問題(我が国には領土問題などないというのが政府見解ではあるが)など,一見すると双方の外向的関係には紛争の種しかないようにも思えるが,紛争にしたくないのが中国政府の本音であるというのが彼の見解である。その理由は是非読んで頂きたい。内容については賛否両論あるだろうが,一つの見解として知っておくに越したことはないだろう。

  現在彼は,拠点をアメリカに移し,外から見た中国という研究に着手しようとしているようである。今後も中国問題のオピニオンリーダーとして活躍されるであろう彼の言説には,これからも注目していきたいところである。

過去のコラム

(91)  死神って本当は天使だったの?
「知念実希人 優しい死神の飼い方 光文社文庫」 (2017.10.16)

(90)  メンタルなことで仕事が行き詰っていませんか
「北川恵海 ちょっと今から仕事やめてくる メディアワークス文庫」 (2017.9.11)

(89)  池井戸ファンにおススメの一冊です。
「池井戸潤 アキラとあきら 徳間文庫」 (2017.8.22)

(88)  生まれ変わりを信じますか。
「佐藤正午さんの 月の満ち欠け 岩波書店」 (2017.7.12)

(87)  アル・カポネ,ジョン・デリンジャーといえば?
「スティーヴン・ハンター Gマン 宿命の銃弾(上・下) 扶桑社ミステリー」 (2017.6.20)

(86)  もしも過去の事実を改変できるとしたら
「梶尾真治 クロノス・ジョウンターの伝説 徳間文庫」 (2017.5.16)

(85)  もしも人間の知能を人工的に高めることができるとしたら
「ダニエル・キイス アルジャーノンに花束を ハヤカワ文庫」 (2017.4.11)

(84)  NHKさん、シュンスケを大河ドラマの主役にしてください
「門井慶喜 シュンスケ 角川文庫」 (2017.3.30)

(83)  純な気持ちでお読みください。
「住野よる 君の膵臓を食べたい 双葉社」 (2017.1.20)

(番外編)  司法修習生はどんな本を読んでいるのか
「伊坂幸太郎 サブマリン 講談社」 (2016.12.16)

(82)  ピカソのキュビズムって何?
「原田マハ 暗幕のゲルニカ 新潮社」 (2016.11.21)

(81)  家康は僻地江戸をどのように建設したのでしょうか
「門井慶喜(かどい よしのぶ) 家康、江戸を建てる 祥伝社」 (2016.10.13)

(80)  ランニングシューズ業界を覗いてみましょう
「池井戸潤 陸王 集英社」 (2016.9.9)

(79)  ピアノの調律師って?
「宮下奈都 羊と鋼の森 文藝春秋」 (2016.6.17)

(78)  人はなぜ山に登るのか
「夢枕獏 神々の山嶺(いただき) 上下巻、集英社文庫」 (2016.5.31)

(77)  ガラ携って何?
「相場英雄 ガラパゴス上・下巻 小学館」 (2016.4.11)

(76)  尖閣問題について考えてみましょう。
「青木俊 尖閣ゲーム 幻冬舎」 (2016.3.25)

(75)  宗教にはまったことはありますか。
「中村文則 教団X 集英社」 (2016.3.11)

(74)  中国にもつい100年前まで皇帝がいました。
「浅田次郎 蒼穹の昴 講談社」 (2016.1.26)

(73)  「仁義なき戦い」の菅原文太はかっこよかった。
「柚月裕子 孤狼の血 角川書店」 (2015.12.3)

(72)  どうして山に登るのか
「下村敦史 生還者 講談社」 (2015.12.3)

(71)  お互い愛情もない夫婦、そんな中、相手を突然亡くしたら・・・
「西川美和 永い言い訳 文芸春秋」 (2015.11.9)

(70)  復讐とは虚しいものですね
「ピエール・ルメートル その女アレックス 文春文庫」 (2015.10.29)

(69)  人魚姫ならぬ金魚姫はいかがですか
「萩原浩(おぎわら ひろし) 金魚姫 角川書店」 (2015.10.15)

(68)  突然、あなたの秘密が本で暴かれたら?
「ルネ・ナイト 夏の沈黙 東京創元社」 (2015.8.17)

(67)  ダビィンチには謎がいっぱい
「真保裕一 レオナルドの扉 角川書店」 (2015.8.10)

(66)  戦後の台湾をもっと知ってみたい
「東山彰良 流(りゅう) 講談社」 (2015.8.4)

(65)  産業スパイって本当にいるんですよね。
「吉田修一 森は知っている 幻冬舎」 (2015.6.3)

(64)  ライオンさん、一度でも帰国していれば・・・
「さだまさし 風に立つライオン 幻冬舎文庫」 (2015.4.15)

(63)  それでも3億円が当たってみたい。
「川村元気 億男 マガジンハウス」 (2015.4.7)

(62)  神の子は知能が優れているのでしょうか。
「薬丸岳 神の子 上・下巻 光文社」 (2015.3.25)

(61)  米軍史上最強の狙撃手の自伝です
「クリス・カイル アメリカン・スナイパー ハヤカワ文庫」 (2015.3.10)

(60)  戦隊ヒーローに憧れませんでしたか
「阿部和重・伊坂幸太郎合作 キャプテン・サンダーボルト 文藝春秋」 (2015.3.3)

(59)  裁判員裁判について勉強しよう。
「法坂一広 最終陳述 宝島社」 (2015.2.17)

(58)  死を目前にした男の生きざまとは
「殉愛 百田尚樹 幻冬舎」 (2014.11.27)

(57)  裁判官って普通の人と違うんですか
「黒木亮 法服の王国・小説裁判官(上)(下) 産経新聞出版」 (2014.10.29)

(56) 植物状態から生還したらどうなる?
「真保裕一 奇跡の人 新潮社文庫」 (2013.12.25)

(55) 時をかける手紙
「東野圭吾 ナミヤ雑貨店の奇蹟 角川書店」 (2013.12.11)

(54) 人類の世紀末を想像できますか
「極北 マーセル・セロー  中央公論新社」 (2013.12.2)

(53) パンデミックをご存じですか?
「生存者ゼロ 安生正 宝島社」 (2013.11.21)

(52) 海外で亡くなった人はどのようにして帰国するのでしょうか
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士 佐々涼子 集英社」 (2013.11.13)

(51) 倍返しと土下座で著名な半沢直樹の続編です。
「ロスジェネの逆襲 池井戸潤 ダイヤモンド社」 (2013.11.1)

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