弁護士中山の「私の一冊」

大人の流儀はユーモアいっぱい (2012.1.25)

伊集院 静 「大人の流儀」「続大人の流儀」講談社

 

  今回ご紹介するのは,私の大好きな作家の1人である伊集院静さんです。彼は,幅広く,数多くのおもしろい小説を書いているのですが,紹介するのは小説ではなくて,エッセイです。このエッセイを読まれるにあたって,是非知って頂きたいのが作家伊集院静さんご本人についてです。まずお詫びします。伊集院さんにとっては存在すらも知れていない,一読者に過ぎない私が彼のことをかく言うのも失礼極まりなくて申し訳ありません,心からお詫び申し上げます。さあ言わせて頂きます。でも,たぶん,きっとこの方はとんでもないわがままで無頼漢です。誰でもこのエッセイを読んで頂ければすぐにわかります。一人称で作家自身が感じられたことを書いているのですが,私は言いたい。「伊集院さん,あなた一体何様なの,ここまで言う権利があなたにあるんですか」「本当にこんなこと言ってあとで問題になりませんか」,と腹を抱えて笑い転げたくなるような痛烈な発言及び表現がぞろぞろ出てきます。彼は,1950年山口県防府市生まれ。比較的裕福な家庭に育ち,野球少年でした。少年時代,弟さん海の事故で亡くされています。高じて美術大学を志望します。その頃,縁あって,あのミスター長島から「野球をするなら立教に行きなさい」と無責任なお言葉を頂きます。この一言で彼は立教に進学し野球をすることになります。プロの道は閉ざされます。卒業後は,持ち前の美術センスを活かして広告代理店に勤務します。CMディレクターとして後に彼の妻となったあの夏目雅子を発掘するとともに,ユーミン,松田聖子,和田アキ子など数多くのコンサートやファッションショーのディレクターを務めたりします。夏目雅子さんとの数年間に及ぶ交際が発覚し,広告代理店を辞めて,彼女と結婚。残念ながら夏目さんは結婚して,1年足らずで急性骨髄性白血病でしたが27歳の若さで亡くなります。現在の医学なら骨髄移植で助かったはずです。とまれ,彼は作詞も手がけマッチこと近藤真彦が歌った「ギンギラギンにさりげなく」「愚か者」はレコード大賞の最優秀新人賞と大賞を取りました。文筆活動としては,81年に作家デビューです。後述するように数多くの賞を受賞しています。先ほど無頼漢と言いましたが,交友関係も凄いんですよね。あの居眠り先生こと麻雀放浪記で有名な阿佐田哲也(作家名色川たけひろ)さんを師として仰ぎ,自らも旅打ち(開催日を追って全国の競輪場を転々と旅するなど)をするギャンブラーでした。いわゆる飲む,打つ,買うすべてOKです。ついでに,ゴルフの腕前もすごくて,ゴルフの聖地スコットランドを巡って,数々のゴルフ場を写真集にしていたりします。井上陽水やメジャーリーガーの松井秀喜との親交も深いようです。

  こんな彼のエッセイですが,それぞれに春,夏,秋,冬,風,花,雪,月のお題のもとに綴られています。2冊全部で75題です。例えば「鮨屋に子どもを連れて行くな」では,鮨屋で隣にいた子どもが,「トロ,さび抜きでお願いします」なんて言おうものなら,頭をひっぱたいてやるのが大人の務めだそうで,ほおっておいたらこんな子どもはろくな大人に育たないそうです。「女性がゴルフをするときの心得」では,女性はラウンドの際どんな服装がふさわしいとか,クラブ数本持って走らなければなりませんかなどという疑問に答えます。「カラオケが下手で何が悪い」では,マッチの前で「ギンギラギンに・・・」を自慢の歌声で披露したところ,マイクをおいたら未だ曲が延々と流れ続けていて,マッチから「下手ですね」と言われたとか,

「受験エリートに足りないもの」
「遊びだからこそいい加減にしなさい」
「大人が結婚式で言うべきこと」スピーチは短く端的に。
「料理店と職人に一言申す」
「自分さえよければいい人たち」
「大人が口にすべきでない言葉がある」
「銀行家にハッキリ言っておく」
「エリートは被災地に行かないのか」
「幸福のすぐとなりに哀しみがあると知れ」
「大人にも妄想が必要だ」
「女は不良の男が好きなんだよ」
「若い修行の身がなぜ休む」
「相撲取りに社会常識を求めるな」これは極めつけです。
「高収入のスポーツ選手がそんなに偉いのか」
「男は死に際が肝心だ」などなどです。

  なお,2冊の本の巻末にオマケのお話しが付いています。

  本編では作者と亡夏目雅子さんとの出会いと別れについて書かれています。出会い,発病から別れ,その後に至るまで,「そうだったのか」と思いました。

  続編では仙台市在住の作者が自ら東日本大震災を体験したリアルタイムの記録をまざまざと綴っています。たまたま,補強をかねた改築工事をしていたので,家の半分は無事だったこと,家人が近隣の炊き出しに参加したこと。作者が東京まで買い出しに行ったことなどなどです。

  オマケ部分だけでも大変興味深く読めました。最後によけいなお世話ですが,彼は女優の篠ひろこさんと結婚をして仙台在住です。といってもあちこち飛び回っていて,仙台には年に数ヶ月もいないそうですが。本編189頁・続編188頁併せても380頁足らずです。存分に楽しんで頂ければと思います。

  91年「乳房」で吉川英治文学新人賞,92年「 受け月」で直木賞,94年「機関車先生」で柴田錬三郎賞 ,01年「ころころ」で吉川英治文学賞を各受賞している。作家の西山繭子は実娘。ペンネーム「伊集院静」は広告代理店の社長が「はいからさんが通る」という漫画から拝借したものを押しつけられたという(了)。

過去のコラム

(90)  メンタルなことで仕事が行き詰っていませんか
「北川恵海 ちょっと今から仕事やめてくる メディアワークス文庫」 (2017.9.11)

(89)  池井戸ファンにおススメの一冊です。
「池井戸潤 アキラとあきら 徳間文庫」 (2017.8.22)

(88)  生まれ変わりを信じますか。
「佐藤正午さんの 月の満ち欠け 岩波書店」 (2017.7.12)

(87)  アル・カポネ,ジョン・デリンジャーといえば?
「スティーヴン・ハンター Gマン 宿命の銃弾(上・下) 扶桑社ミステリー」 (2017.6.20)

(86)  もしも過去の事実を改変できるとしたら
「梶尾真治 クロノス・ジョウンターの伝説 徳間文庫」 (2017.5.16)

(85)  もしも人間の知能を人工的に高めることができるとしたら
「ダニエル・キイス アルジャーノンに花束を ハヤカワ文庫」 (2017.4.11)

(84)  NHKさん、シュンスケを大河ドラマの主役にしてください
「門井慶喜 シュンスケ 角川文庫」 (2017.3.30)

(83)  純な気持ちでお読みください。
「住野よる 君の膵臓を食べたい 双葉社」 (2017.1.20)

(番外編)  司法修習生はどんな本を読んでいるのか
「伊坂幸太郎 サブマリン 講談社」 (2016.12.16)

(82)  ピカソのキュビズムって何?
「原田マハ 暗幕のゲルニカ 新潮社」 (2016.11.21)

(81)  家康は僻地江戸をどのように建設したのでしょうか
「門井慶喜(かどい よしのぶ) 家康、江戸を建てる 祥伝社」 (2016.10.13)

(80)  ランニングシューズ業界を覗いてみましょう
「池井戸潤 陸王 集英社」 (2016.9.9)

(79)  ピアノの調律師って?
「宮下奈都 羊と鋼の森 文藝春秋」 (2016.6.17)

(78)  人はなぜ山に登るのか
「夢枕獏 神々の山嶺(いただき) 上下巻、集英社文庫」 (2016.5.31)

(77)  ガラ携って何?
「相場英雄 ガラパゴス上・下巻 小学館」 (2016.4.11)

(76)  尖閣問題について考えてみましょう。
「青木俊 尖閣ゲーム 幻冬舎」 (2016.3.25)

(75)  宗教にはまったことはありますか。
「中村文則 教団X 集英社」 (2016.3.11)

(74)  中国にもつい100年前まで皇帝がいました。
「浅田次郎 蒼穹の昴 講談社」 (2016.1.26)

(73)  「仁義なき戦い」の菅原文太はかっこよかった。
「柚月裕子 孤狼の血 角川書店」 (2015.12.3)

(72)  どうして山に登るのか
「下村敦史 生還者 講談社」 (2015.12.3)

(71)  お互い愛情もない夫婦、そんな中、相手を突然亡くしたら・・・
「西川美和 永い言い訳 文芸春秋」 (2015.11.9)

(70)  復讐とは虚しいものですね
「ピエール・ルメートル その女アレックス 文春文庫」 (2015.10.29)

(69)  人魚姫ならぬ金魚姫はいかがですか
「萩原浩(おぎわら ひろし) 金魚姫 角川書店」 (2015.10.15)

(68)  突然、あなたの秘密が本で暴かれたら?
「ルネ・ナイト 夏の沈黙 東京創元社」 (2015.8.17)

(67)  ダビィンチには謎がいっぱい
「真保裕一 レオナルドの扉 角川書店」 (2015.8.10)

(66)  戦後の台湾をもっと知ってみたい
「東山彰良 流(りゅう) 講談社」 (2015.8.4)

(65)  産業スパイって本当にいるんですよね。
「吉田修一 森は知っている 幻冬舎」 (2015.6.3)

(64)  ライオンさん、一度でも帰国していれば・・・
「さだまさし 風に立つライオン 幻冬舎文庫」 (2015.4.15)

(63)  それでも3億円が当たってみたい。
「川村元気 億男 マガジンハウス」 (2015.4.7)

(62)  神の子は知能が優れているのでしょうか。
「薬丸岳 神の子 上・下巻 光文社」 (2015.3.25)

(61)  米軍史上最強の狙撃手の自伝です
「クリス・カイル アメリカン・スナイパー ハヤカワ文庫」 (2015.3.10)

(60)  戦隊ヒーローに憧れませんでしたか
「阿部和重・伊坂幸太郎合作 キャプテン・サンダーボルト 文藝春秋」 (2015.3.3)

(59)  裁判員裁判について勉強しよう。
「法坂一広 最終陳述 宝島社」 (2015.2.17)

(58)  死を目前にした男の生きざまとは
「殉愛 百田尚樹 幻冬舎」 (2014.11.27)

(57)  裁判官って普通の人と違うんですか
「黒木亮 法服の王国・小説裁判官(上)(下) 産経新聞出版」 (2014.10.29)

(56) 植物状態から生還したらどうなる?
「真保裕一 奇跡の人 新潮社文庫」 (2013.12.25)

(55) 時をかける手紙
「東野圭吾 ナミヤ雑貨店の奇蹟 角川書店」 (2013.12.11)

(54) 人類の世紀末を想像できますか
「極北 マーセル・セロー  中央公論新社」 (2013.12.2)

(53) パンデミックをご存じですか?
「生存者ゼロ 安生正 宝島社」 (2013.11.21)

(52) 海外で亡くなった人はどのようにして帰国するのでしょうか
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士 佐々涼子 集英社」 (2013.11.13)

(51) 倍返しと土下座で著名な半沢直樹の続編です。
「ロスジェネの逆襲 池井戸潤 ダイヤモンド社」 (2013.11.1)

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番外編
スコットランドゴルフ紀行

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