弁護士中山の「私の一冊」

「将来」と「未来」の意味の違いを考えたことありますか? (2012.1.19)

福井晴敏「震災後」小学館

 

  福井晴敏といえば「亡国のイージス」や「終戦のローレライ」の作者であり,「Twelve Y.O.」で江戸川乱歩賞を受賞した人気作家ですが,本作品であの大震災の現実に挑みます。

 

  タイトルそのままのとおり東日本大震災を正面から真面目に扱った小説です。

 

  サブタイトルは「こんな時だけど,そろそろ未来の話しをしようか」です。この作品は,震災発生日である2011年3月11日からわずか3ヶ月くらいの,週刊ポストの6月17日号から11月11日号までで連載されたものの単行本です。ですから,連載中に明らかになった事実も加えてそのまま取り上げられており,作品内容は小説仕立てですので,もちろんフィクションですが,今回の震災のノンフィクション部分も多く含まれてあり,史実として再認識させられることになります。

 

   ところで,平成23年3月11日の発生時,皆さんはどこにおられましたか?

 

  私は,車を運転して裁判所へ行く途中でした。偶々つけていたラジオからは緊急地震速報と津波警報,避難勧告が,同じ内容で繰り返し流れていました。一体どうしたっていうんだろうと,自宅に戻り,テレビをつけてからはじめてことの重大性を知りました。それから毎日のように,普段見ないテレビに釘付けにされ,震災の惨状を知り愕然とするとともに,AC広告にはうんざりしたのは皆さんと同じです。

 

   この大地震がマグニチュード9であり,世界観測史上4番目,日本では戦後最大の大地震であったこと。東北地方だけでなく,その後数ヶ月に渡り,留まることを知らないマグニチュード7クラスの余震の数かず。地震当日はすべての鉄道を含む交通機関がストップして,徒歩にて家路を急ぐ人の波が東京の町に溢れたように,被害は関東地方の広域にも及びました。

 

  この大地震によって発生し,東北沿岸を襲った津波は部分的に海岸から5キロ以上も遡上して被害をもたらしています。  想像してみてください。

 

  海岸から5㎞と言えば,東京であるなら銀座も東京駅も六本木も皇居すらも飲み尽くされます。大阪なら浪速と天王寺はほぼ壊滅。福岡なら,私たちが暮らす博多全域が濁流に洗われることになります。こうした現実が,事実被災地にあり,現在もその傷跡は残されたままです。しかし,その一方で5㎞を超える車道ひとつ挟んだ向こうは一見何の被害もありません。穏やかな地方の風景がそのまま残されているのです。道一本を境にはっきり明暗が分かれたところが,地震そのものの被害ではなく津波による被害の特徴なのだそうです。

 

   さらに福島第1原発を襲った津波被害。電源を失った原子炉を冷やすには注水を続けるしかなく,注水を続ければ当然それにより汚染水が増える。そんなことははじめからわかっていたらしい。でも冷やさなければ,使用済みの燃料貯水槽の水位が下がり,ひやがることになっていれは,それこそ放射能汚染は関東全域に及んでいたという現実。震災当時,直ちに関東全域まで避難勧告を出すことが検討されていたことが最近の報道で明らかになっています。

 

  現在,国は年間被爆量の限度を20㎜シーベルト以下に定めています。これは国際基準に照らせば,安全な数値に設定されているといいます。しかし,例えば100㎜シーベルト以上の放射線が人体にどのような影響を与えるのか,この数値であればそのデータはそろっているといいます。人体に甚大な影響を与えるということです。 一方,100㎜シーベルト以下となると長期的な観測データはなく専門家の間でも意見は割れています。唯一,チェルノブイリの体験でわかっているのは,乳幼児に対しては甲状腺ガンの危険性が高まり,現実にチェルノブイリでも起こっているとのことです。

 

  さて,本編の内容は,東京近郊に暮らす平凡な一会社員の体験を通じて語られる震災とその後,脱原発は果たして可能なのか,原発に頼らない世界とは?何げなく使っている「将来」と「未来」の言葉の違いを再認識し,震災を改めて理解してみませんか。

 

  神様がいるのならどうしてこのような災いが起こるのでしょうか?

 

  著者は,1968年東京都出身,千葉商科大経済学科中退,子どもの頃から活字は読まず,漫画っ子だったという。週刊少年ジャンプ世代である。高じて,映画好きとなり,オリジナルの映画のシナリオを書くことから小説に進化したという。冒頭で紹介した,「亡国のイージス」(2000年日本推理作家協会賞,日本冒険小説協会大賞,大藪春彦賞),「終戦のローレライ」(2003年吉川英治文学新人賞,日本冒険小説協会大賞)はいずれも映画化されている(了)。

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