弁護士中山の「私の一冊」

世界史を勉強してみませんか? (2011.10.26)

川北 稔 「砂糖の世界史」 岩波ジュニア新書

 

  本日はタイトルその名の通り,砂糖の歴史についてのお勉強です。

  今でこそダイエットで砂糖控えめというのがよく聞かれますが,私たちが記憶のある限り幼少の頃,はじめて砂糖を口にして,この甘さに惹かれなかった人はいなかったと思います。歴史上のその昔,砂糖には驚くほど多くの用途がありました。結核治療をはじめとした薬,甘みを引き出す調味料,カロリー源としての食料などはその一例に過ぎません。では真っ白純白に精製された砂糖はどうやって製造するのでしょうか。そうです,さとうきびを栽培して,これを絞り,液化したジュースを煮詰め蒸発させて固形化させる工程を繰り返すことにより完成します。とはいえ,プランテーション化が始まった16世紀にあっても,砂糖の供給量はとても少なくて極めて珍しく高価なものだったのです。さとうきびの原産地はインドだといわれていますが,いずれにしろ,熱帯や亜熱帯地方での栽培に適していました。

  砂糖は,16世紀から19世紀までの近代初期の世界で広く取引され,お茶,たばこ,香料,綿花などとともに世界商品といわれています。これら世界商品を独占できれば莫大な利益が上げられることはいうまでもありません。それで,海賊が横行していた大航海時代のヨーロッパの列強各国は砂糖の生産をいかにして握るか,その流通ルートをいかにして押さえるかということを競うようになります。
  さて,砂糖を作る方法は先ほど触れましたが,現実には誰がどこで作るのかが問題です。
  答えは,まず,場所は生産に適した熱帯地域であるブラジルやカリブ海の島々の植民地,現地にてこれを生産するのは奴隷,すなわちアフリカから略奪連行された黒人ということになります。これら連行されたアフリカンは数千万人にも及んでいました。また,ご存じのとおり,綿花栽培は新大陸アメリカでも黒人奴隷によって担われていました。これらの黒人たちは,アフリカから1ヶ月以上にも及ぶ航海の間,帆船の船底にすし詰めにされて運ばれたのですが,十分な食料はもちろん水さえ与えられずに,多くは航海の途中で脱水症状や伝染病などにより亡くなっており,その数は生きて運ばれた人数の4倍にも達するとの報告もあるくらいです。現在,アフリカがルーツであるはずの黒人が全世界に分布しているという理由がここにあったわけです。

  高校生の時に,世界史で習った三角貿易というのを覚えていますか?
>  はい,ヨーロッパとアフリカとカリブ海を結ぶ三角です。ヨーロッパ人は砂糖などを生産するプランテーションでの労働力を確保するためにアフリカから奴隷を物々交換により買います。アフリカで奴隷を供給するのは,初期は,ヨーロッパ人自らが確保していましたが,その後は,何と既に樹立されていた黒人王国が供給していたのです。奴隷の代価としては,鉄砲やガラス玉や綿織物が支払われました。奴隷を得たヨーロッパ人は新大陸をめざして航海し,奴隷たちを南北アメリカやカリブ海域で売り,これと引き換えに砂糖を得るのです。こうして得られた砂糖はヨーロッパ各地に持ち込まれ高値で売られるのです。この三角貿易によるヨーロッパ人船主の利益は元手の2倍にもなったといわれています。
  いかがでしょうか。ざっとあらすじについて説明しましたが,砂糖というモノを通じて世界史がわかります。

   歴史を学ぶということは,年代や事件や人名をすべて暗記するということではありません。今の私たちの世界がどのようにして今日のような姿,形になったのかを,身近なところから考えてみましょう・・・と巻末にありました。世界史選択の受験生必読の書です。

   本書は96年初版。作者は1940年生まれ。京都大学文学部卒業後,歴史学を研究,大阪大学文学部の教授を定年退官,現在は仏教大学歴史学部教授。

過去のコラム

(91)  死神って本当は天使だったの?
「知念実希人 優しい死神の飼い方 光文社文庫」 (2017.10.16)

(90)  メンタルなことで仕事が行き詰っていませんか
「北川恵海 ちょっと今から仕事やめてくる メディアワークス文庫」 (2017.9.11)

(89)  池井戸ファンにおススメの一冊です。
「池井戸潤 アキラとあきら 徳間文庫」 (2017.8.22)

(88)  生まれ変わりを信じますか。
「佐藤正午さんの 月の満ち欠け 岩波書店」 (2017.7.12)

(87)  アル・カポネ,ジョン・デリンジャーといえば?
「スティーヴン・ハンター Gマン 宿命の銃弾(上・下) 扶桑社ミステリー」 (2017.6.20)

(86)  もしも過去の事実を改変できるとしたら
「梶尾真治 クロノス・ジョウンターの伝説 徳間文庫」 (2017.5.16)

(85)  もしも人間の知能を人工的に高めることができるとしたら
「ダニエル・キイス アルジャーノンに花束を ハヤカワ文庫」 (2017.4.11)

(84)  NHKさん、シュンスケを大河ドラマの主役にしてください
「門井慶喜 シュンスケ 角川文庫」 (2017.3.30)

(83)  純な気持ちでお読みください。
「住野よる 君の膵臓を食べたい 双葉社」 (2017.1.20)

(番外編)  司法修習生はどんな本を読んでいるのか
「伊坂幸太郎 サブマリン 講談社」 (2016.12.16)

(82)  ピカソのキュビズムって何?
「原田マハ 暗幕のゲルニカ 新潮社」 (2016.11.21)

(81)  家康は僻地江戸をどのように建設したのでしょうか
「門井慶喜(かどい よしのぶ) 家康、江戸を建てる 祥伝社」 (2016.10.13)

(80)  ランニングシューズ業界を覗いてみましょう
「池井戸潤 陸王 集英社」 (2016.9.9)

(79)  ピアノの調律師って?
「宮下奈都 羊と鋼の森 文藝春秋」 (2016.6.17)

(78)  人はなぜ山に登るのか
「夢枕獏 神々の山嶺(いただき) 上下巻、集英社文庫」 (2016.5.31)

(77)  ガラ携って何?
「相場英雄 ガラパゴス上・下巻 小学館」 (2016.4.11)

(76)  尖閣問題について考えてみましょう。
「青木俊 尖閣ゲーム 幻冬舎」 (2016.3.25)

(75)  宗教にはまったことはありますか。
「中村文則 教団X 集英社」 (2016.3.11)

(74)  中国にもつい100年前まで皇帝がいました。
「浅田次郎 蒼穹の昴 講談社」 (2016.1.26)

(73)  「仁義なき戦い」の菅原文太はかっこよかった。
「柚月裕子 孤狼の血 角川書店」 (2015.12.3)

(72)  どうして山に登るのか
「下村敦史 生還者 講談社」 (2015.12.3)

(71)  お互い愛情もない夫婦、そんな中、相手を突然亡くしたら・・・
「西川美和 永い言い訳 文芸春秋」 (2015.11.9)

(70)  復讐とは虚しいものですね
「ピエール・ルメートル その女アレックス 文春文庫」 (2015.10.29)

(69)  人魚姫ならぬ金魚姫はいかがですか
「萩原浩(おぎわら ひろし) 金魚姫 角川書店」 (2015.10.15)

(68)  突然、あなたの秘密が本で暴かれたら?
「ルネ・ナイト 夏の沈黙 東京創元社」 (2015.8.17)

(67)  ダビィンチには謎がいっぱい
「真保裕一 レオナルドの扉 角川書店」 (2015.8.10)

(66)  戦後の台湾をもっと知ってみたい
「東山彰良 流(りゅう) 講談社」 (2015.8.4)

(65)  産業スパイって本当にいるんですよね。
「吉田修一 森は知っている 幻冬舎」 (2015.6.3)

(64)  ライオンさん、一度でも帰国していれば・・・
「さだまさし 風に立つライオン 幻冬舎文庫」 (2015.4.15)

(63)  それでも3億円が当たってみたい。
「川村元気 億男 マガジンハウス」 (2015.4.7)

(62)  神の子は知能が優れているのでしょうか。
「薬丸岳 神の子 上・下巻 光文社」 (2015.3.25)

(61)  米軍史上最強の狙撃手の自伝です
「クリス・カイル アメリカン・スナイパー ハヤカワ文庫」 (2015.3.10)

(60)  戦隊ヒーローに憧れませんでしたか
「阿部和重・伊坂幸太郎合作 キャプテン・サンダーボルト 文藝春秋」 (2015.3.3)

(59)  裁判員裁判について勉強しよう。
「法坂一広 最終陳述 宝島社」 (2015.2.17)

(58)  死を目前にした男の生きざまとは
「殉愛 百田尚樹 幻冬舎」 (2014.11.27)

(57)  裁判官って普通の人と違うんですか
「黒木亮 法服の王国・小説裁判官(上)(下) 産経新聞出版」 (2014.10.29)

(56) 植物状態から生還したらどうなる?
「真保裕一 奇跡の人 新潮社文庫」 (2013.12.25)

(55) 時をかける手紙
「東野圭吾 ナミヤ雑貨店の奇蹟 角川書店」 (2013.12.11)

(54) 人類の世紀末を想像できますか
「極北 マーセル・セロー  中央公論新社」 (2013.12.2)

(53) パンデミックをご存じですか?
「生存者ゼロ 安生正 宝島社」 (2013.11.21)

(52) 海外で亡くなった人はどのようにして帰国するのでしょうか
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士 佐々涼子 集英社」 (2013.11.13)

(51) 倍返しと土下座で著名な半沢直樹の続編です。
「ロスジェネの逆襲 池井戸潤 ダイヤモンド社」 (2013.11.1)

Column41-50
Column31-40
Column21-30
Column11-20
Column1-10
番外編
スコットランドゴルフ紀行

HOME › 弁護士中山の「私の一冊」

» 事務所紹介    » 業務内容    » 弁護士紹介    » 各種料金    » お問い合わせ