弁護士中山の「私の一冊」

限りある水を大切に! (2010.10.25)

真保裕一 「ブルー・ゴールド」 朝日新聞出版

 

  海や河川が存在し,多様な生命体の存在する太陽系唯一の水の惑星地球。大気圏外から見た地球が青いのは,これら水によるものであることは余りにも有名ですよね。私たちは毎日,当然のごとく水を飲み,あらゆることに利用し消費しています。日本では安定した降水量により水に恵まれており,切実な水不足問題はほとんどないといってもいいですよね。  

  ところで,地球上の水の97%は海水によって占められています。しかし,海水を科学的に淡水化することは,費用が嵩むため,一部の離島を除き,私たちは海水ではなく淡水をそのまま利用しています。ちなみに,淡水のほとんどは氷河や氷山状態であり,現に利用されているのは,湖,河川水,地下水であり,水全体の1%にも満たないのです。こうしてみると,水が貴重であることが浮き彫りにされてきますよね。もちろん,水は太陽エネルギー等により,蒸発・降水・地表流・土壌への浸透などを経て地球上を絶えず循環しますので,完全に失われることはないものと考えられています。ただ,水の分布には偏りがあり,一定の地域では圧倒的に不足しており,この瞬間にも,全世界で約10億人もの人々が飲み水にさえ困っているのです。また,全世界における水の使用量は年々増加しており,近い将来には,水は量と質の限界を迎えるとさえ言われています。ちなみに,人類の現在の水の使用量の約7割が農業用水,約2割が工業用水,約1割が生活用水だそうです。もっと身近にみれば,生活用水について日本の家庭を例にとれば,使用量は多い順にトイレ,風呂,炊事となっています。さらに,東京都では1日1人あたり約250リットルを使用しているとの統計があります。

  石油を代表するエネルギー資源,レアメタル,情報とIT産業。さらに,いま多国籍企業が利益産業として目を付けているのが「水」,レアメタルならぬレアウォーターなのだそうです。

  水に関する商いと言えば,ペットボトルで売られている美味しい水は日常身近にありわかりますが,ここで利益産業といわれているのは,規模が違い,より大きく水道事業のことをいいます。日本では水道事業は,上下水道ともに地方自治体が担っており,一部管理業務を民間に委託しているケースはあるようですが,生活必需品の水について,国民に過度の使用料を負担させることは出来ませんので,自治体の事業としては赤字を余儀なくされているのです。もちろん,この赤字分は税金で補なわれていますが。しかし,海外では水道事業の民営化が進んでいるところもあるのです。特に発展途上国では,水道事業について,国が担う力量がないために前記多国籍企業に依存して,これら企業に利益を保証して参入を認めているのです。つまり,多国籍企業は利益が生じるように事業計画を立て実施するわけですが,さらに赤字が予測されれば,事後的に安易な水道使用料の値上げを政府から保証されて利益を確保できるのです。ビジネスとして成り立つ所以です。この場合,水道料値上げにより疲弊するのは利用者である国民になりますが・・・。

  本書は「水」,それも地下水を巡っての商社間の攻防を描いたものです。巨大商社葵物産社員として入社4年目の藪内は,ジャカルタでの発電施設のプラント工事受注合戦において,上司の命じるまま違法なリベート(賄賂)を供与し,官憲に発覚。結果,受注合戦に敗れる。藪内は責任を取らされ,いきなり関連会社に出向させられる羽目に。しかもそこは,ごく小さなコンサルタント会社だった。コンサルタント会社を率いるのは,もと葵のトルネードと呼ばれ業界筋で怖れられていた伊比だった。葵物産は,伊比のもとに藪内をスパイとして送り込もうとしていたのだった。そんな狙いを知ってか知らずか,藪内が出向先で伊比から命ぜられた初めての仕事は,豊富な地下水を必要とする精密機械企業の新工場建設のための用地確保だった。成功すれば2000億近い受注に繋がるビッグビジネスだ。用地確保のため,酒造会社の敷地を奪おうと,策を講じ同社を買収,清算へと追い込もうとする伊比。ことは順調に進むかに見えたが,想定外の妨害工作が入る。予定用地が汚染されていることがリークされたのだった。敵の正体は見え隠れしてくるが・・・。その妨害の真の目的とは何か。謀略,告発,伊比を取り巻く過去に果たして何があったのか?

  本書は,会社の利潤追求のためには,国を動かす策まで講じる巨大商社の実体の一面(?)を暴露する興味深い社会派サスペンスとなっています。ラストに向けて次第に謎解きされ,どんでん返しの繰り返しが何とも言えません。

  作者は1961年東京都生まれ。千葉の県立高校を卒業後,アニメ制作を目指し数回の入社試験を経てシンエイ動画に入社。テレビアニメ「笑ゥせぇるすまん」のディレクターを担当,勤務の傍ら91年「連鎖」で江戸川乱歩賞を受賞して作家デビュー。95年織田裕二と松嶋菜々子主演で映画にもなった「ホワイトアウト」で吉川英治文学新人賞受賞。96年「奪取」で山本周五郎賞及び日本推理作家協会賞のダブル受賞。06年「灰色の北壁」で新田次郎文学賞受賞。作風はミステリに留まらず,エンターテイメント全般に及ぶ広さがあり,年に1,2冊を発表している流行作家のひとりである。07年から10年にかけてアニメ「ドラえもんのび太の新魔界大冒険」ほかドラえもんシリーズ2作について脚本を手がけている(了)。

過去のコラム

(90)  メンタルなことで仕事が行き詰っていませんか
「北川恵海 ちょっと今から仕事やめてくる メディアワークス文庫」 (2017.9.11)

(89)  池井戸ファンにおススメの一冊です。
「池井戸潤 アキラとあきら 徳間文庫」 (2017.8.22)

(88)  生まれ変わりを信じますか。
「佐藤正午さんの 月の満ち欠け 岩波書店」 (2017.7.12)

(87)  アル・カポネ,ジョン・デリンジャーといえば?
「スティーヴン・ハンター Gマン 宿命の銃弾(上・下) 扶桑社ミステリー」 (2017.6.20)

(86)  もしも過去の事実を改変できるとしたら
「梶尾真治 クロノス・ジョウンターの伝説 徳間文庫」 (2017.5.16)

(85)  もしも人間の知能を人工的に高めることができるとしたら
「ダニエル・キイス アルジャーノンに花束を ハヤカワ文庫」 (2017.4.11)

(84)  NHKさん、シュンスケを大河ドラマの主役にしてください
「門井慶喜 シュンスケ 角川文庫」 (2017.3.30)

(83)  純な気持ちでお読みください。
「住野よる 君の膵臓を食べたい 双葉社」 (2017.1.20)

(番外編)  司法修習生はどんな本を読んでいるのか
「伊坂幸太郎 サブマリン 講談社」 (2016.12.16)

(82)  ピカソのキュビズムって何?
「原田マハ 暗幕のゲルニカ 新潮社」 (2016.11.21)

(81)  家康は僻地江戸をどのように建設したのでしょうか
「門井慶喜(かどい よしのぶ) 家康、江戸を建てる 祥伝社」 (2016.10.13)

(80)  ランニングシューズ業界を覗いてみましょう
「池井戸潤 陸王 集英社」 (2016.9.9)

(79)  ピアノの調律師って?
「宮下奈都 羊と鋼の森 文藝春秋」 (2016.6.17)

(78)  人はなぜ山に登るのか
「夢枕獏 神々の山嶺(いただき) 上下巻、集英社文庫」 (2016.5.31)

(77)  ガラ携って何?
「相場英雄 ガラパゴス上・下巻 小学館」 (2016.4.11)

(76)  尖閣問題について考えてみましょう。
「青木俊 尖閣ゲーム 幻冬舎」 (2016.3.25)

(75)  宗教にはまったことはありますか。
「中村文則 教団X 集英社」 (2016.3.11)

(74)  中国にもつい100年前まで皇帝がいました。
「浅田次郎 蒼穹の昴 講談社」 (2016.1.26)

(73)  「仁義なき戦い」の菅原文太はかっこよかった。
「柚月裕子 孤狼の血 角川書店」 (2015.12.3)

(72)  どうして山に登るのか
「下村敦史 生還者 講談社」 (2015.12.3)

(71)  お互い愛情もない夫婦、そんな中、相手を突然亡くしたら・・・
「西川美和 永い言い訳 文芸春秋」 (2015.11.9)

(70)  復讐とは虚しいものですね
「ピエール・ルメートル その女アレックス 文春文庫」 (2015.10.29)

(69)  人魚姫ならぬ金魚姫はいかがですか
「萩原浩(おぎわら ひろし) 金魚姫 角川書店」 (2015.10.15)

(68)  突然、あなたの秘密が本で暴かれたら?
「ルネ・ナイト 夏の沈黙 東京創元社」 (2015.8.17)

(67)  ダビィンチには謎がいっぱい
「真保裕一 レオナルドの扉 角川書店」 (2015.8.10)

(66)  戦後の台湾をもっと知ってみたい
「東山彰良 流(りゅう) 講談社」 (2015.8.4)

(65)  産業スパイって本当にいるんですよね。
「吉田修一 森は知っている 幻冬舎」 (2015.6.3)

(64)  ライオンさん、一度でも帰国していれば・・・
「さだまさし 風に立つライオン 幻冬舎文庫」 (2015.4.15)

(63)  それでも3億円が当たってみたい。
「川村元気 億男 マガジンハウス」 (2015.4.7)

(62)  神の子は知能が優れているのでしょうか。
「薬丸岳 神の子 上・下巻 光文社」 (2015.3.25)

(61)  米軍史上最強の狙撃手の自伝です
「クリス・カイル アメリカン・スナイパー ハヤカワ文庫」 (2015.3.10)

(60)  戦隊ヒーローに憧れませんでしたか
「阿部和重・伊坂幸太郎合作 キャプテン・サンダーボルト 文藝春秋」 (2015.3.3)

(59)  裁判員裁判について勉強しよう。
「法坂一広 最終陳述 宝島社」 (2015.2.17)

(58)  死を目前にした男の生きざまとは
「殉愛 百田尚樹 幻冬舎」 (2014.11.27)

(57)  裁判官って普通の人と違うんですか
「黒木亮 法服の王国・小説裁判官(上)(下) 産経新聞出版」 (2014.10.29)

(56) 植物状態から生還したらどうなる?
「真保裕一 奇跡の人 新潮社文庫」 (2013.12.25)

(55) 時をかける手紙
「東野圭吾 ナミヤ雑貨店の奇蹟 角川書店」 (2013.12.11)

(54) 人類の世紀末を想像できますか
「極北 マーセル・セロー  中央公論新社」 (2013.12.2)

(53) パンデミックをご存じですか?
「生存者ゼロ 安生正 宝島社」 (2013.11.21)

(52) 海外で亡くなった人はどのようにして帰国するのでしょうか
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士 佐々涼子 集英社」 (2013.11.13)

(51) 倍返しと土下座で著名な半沢直樹の続編です。
「ロスジェネの逆襲 池井戸潤 ダイヤモンド社」 (2013.11.1)

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番外編
スコットランドゴルフ紀行

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