弁護士中山の「私の一冊」

史説のウソ,ホント (2010.9.20)

鯨統一郎 「邪馬台国はどこですか?」 創元推理文庫

 

  以下の記述は,宗教に関する私の純粋個人的な意見に過ぎませんのでどうかご容赦ください。                 

  一時,宗教に凝っていたことがありました。といっても新興宗教とかではなくて,キリスト教と仏教について,知識として興味を持ったことがあるという程度です。歳を重ねると今まで生きてきた時間よりも,残された人生の方が短くなってきますので,考えはじめるといろいろ落ち込んで,ついつい宗教に頼ろうかと・・・というわけでは決してありません。  

  

  西洋では,宗教を信じることは知性の証だといわれているそうです。そうすると,私は無宗教,無神論者ですのでやはり教養に欠けそうです。  

  ところで,自分の家のことながら詳しい経緯は知りませんが,私の父は,どういうわけかクリスチャンです。それで私は,半強制的に,幼少から中学初め頃までは,日曜になれば当然のように教会(プロテスタントです)へ行かされていました。キリスト教といえば,教典としての旧約・新約聖書は余りにも有名ですが,旧約聖書はユダヤ教,イスラム教ともに共通のバイブルです。唯一神はヤハウェです。旧約聖書及び新約聖書ともに読んだことがあります。だからといって,「左頬を打たれれば右頬を出す」ということはありません。どちらかと言えば「目には目を」です。それでも,なじみ深いこともあって,以前からキリスト教やイエスに関する小説を読み耽っています。キリスト教は,ユダヤ教のエッセネ派から派生したというのが定説です。イエスは神の子であり,私たちを救う救世主として聖母マリアの母体を借りて生まれました。イエスがあらゆる奇蹟を起こせたのも神の御業として当然とされています。私たちすべての民の罪を贖うために十字架に架かり,死去3日後に蘇って人々の前に姿を見せたあと,迎えに来た天使とともに天空へ向け神の国へ帰ります。でも,私にはどうして人間界に留まって頂けなかったのかが解せません。なぜなら,もし留まっておられたなら,いま全世界はキリスト教で埋め尽くされたのではないかと推測されるからです。大学時代に,キリスト教学の教授(牧師)が「神は事実存在して,いつも私たちのことを見守っていらっしゃる」と言い,「神はどうして私たちの前に姿を現さないのか」との疑問に対しては,なんと「神が私たちの前に姿を現したら,私たちはいつも監視されているようで,何をするにも萎縮してしまうから」という趣旨の説教をされました。キリスト教における死は,天国と地獄への分かれ道であり,神を信じ善行を重ねれば霊魂となって神の御国である天国に誘われます。アメリカで,死亡直前直後の人間の質量を原子単位で計量したとの報告があります。結果は,死亡の前後で質量は減少した,つまり,霊魂は存在して質量を有する,死後,霊魂は肉体から離れたから軽くなったと主張されます。どうでしょう?  

  次に仏教です。これは,入門書からはじめて,五木寛之が仏教関連を結構書かれていたので読んでみました。開祖は,ネパールのゴータマ・シッダールタ(以下「ブッダ」(仏陀)といいます)であり,彼が死去した後,彼の教えはその意に反し(ブッダ自体はその教えを世に広めることを必ずしも望んでいなかったといわれています),弟子たちによって広められました。彼はシャーキヤ族(音写して釈迦という,だからお釈迦様)の王子のであり,30歳の時に妻子を残し出家しています。ブッダとは「悟ったひと」を意味します。ブッタは自ら悟りを求めたものの,神の存在を肯定しておらず,当初,仏教の信仰の対象はいわゆるホトケ様たる人間ブッダでした。今では,梵天,大日如来などの絶対神の存在が挙げられていますが,これは7世紀頃に,大乗仏教から派生した密教によって唱えられた神です。仏教には弟子たちによって,ブッダの教えを記した膨大な経典があります。その中の般若経に,般若心経というわずか262文字のお経がありますが,これは,とりわけ有名です。般若心経の中に仏教の根本原理が言い尽くされているともいわれています。その教えは誤解を恐れずにいえば,四苦(生・老・病・死)八苦(四苦に怨憎会苦・愛別離苦・求不得苦・五陰盛苦を加えたもの)は,執着心を捨てることにより救われるというのです。すなわち,世にある八苦は,いずれも自らの力では取り除くことが出来ない,どうしようもないことであるから,ならば,いっそのこと,死にたくない,老いたくない,別れたくない,愛を得たいというようなすべての執着心を捨てれば,悩みは自ずと消え去るというのです(でもこれって,凡人には出来そうにないですよね)。ブッダは,輪廻転生を前提として,悟りを開くことにより霊魂として涅槃(天国?)に至り,涅槃に留まることにより,もはや輪廻転生することはなく,現世にて生きる苦しみから解き放たれるとしました。輪廻転生は,死んで生まれ,死んで生まれの繰り返しを意味しますが,現世が人間でも前世及び来世が人間であるとは限らず,牛馬や昆虫である可能性もあるということです。立命館大学の安斎先生が京都の仏教の各宗派の僧侶(修行僧も含む)に対して,「霊は存在するか」についてアンケート調査をしたそうです。その結果,否定的な回答が7割を超えていたそうです。どうでしょう?

  さて本作品です。本書の目次にもありますが,以下の6つのテーマに関する定説とされている史実に対して,傍証を示しつつ作者独自の,つまり,過去にいかなる学者も唱えたことのない新説を提示する歴史ミステリーとなっています。

1 「悟りを開いたのはいつですか?」・・・ブッダの正体とは?ブッダとはいかなる人物であったかを推論します。

2 「邪馬台国はどこですか?」・・・九州でも畿内でもありません,魏志倭人伝をもとに推論していることは他説と同様です。

3 「聖徳太子はだれですか?」・・・推古天皇との本当の関係は?推古天皇の摂政とされていますが,なぜ太子自身が天皇に即位しなかったのでしょうか?

4 「謀反の動機はなんですか?」・・・信長は人格異常者?彼の延暦寺焼き討ちと一向宗信徒殺戮は余りにも度を過ぎています。

5 「維新が起きたのはなぜですか?」・・・龍馬暗殺の真犯人は?大政奉還は龍馬暗殺の翌年でした。

6 「奇蹟はどのようになされたのですか?」・・・イエス復活の真相は?イエスは神の子だったのでしょうか?

  上記のうち邪馬台国論争がもともとの短編の単一作品で,他の5つの作品が付加されて本書として出版されました。  

  どのテーマについても,誰でも一度は聞いたことはあるかと思います。だからこそ,読めば,ええっ,そうなの,こんなこと知らなかった,なるほどこういうことか,でもこんなこと言って大丈夫なの?これは知って得したな,今度あいつに教えてあげよっと,という程度には必ず楽しめます。

  本書にも指摘されていますが,確かに,歴史とされていることを紐解くには,多くは実存する過去の文書に頼るほかありません。例えば,邪馬台国の場合は,我が国に当時の古文書は発見されていません。そこで,中国三國史の情報を垣間見るほかなかったわけです。邪馬台国論争は,基本は魏志倭人伝の解釈を巡っての論争ということになります。我が国に実存する史書と言えば古くは古事記,日本書紀しか残されていません。古事記は,日本創世から推古天皇の時代までを記したもので,日本書紀は日本創世から推古天皇を経て持統天皇の時代までの様子を記した歴史書です。いずれも日本創世からアマテラスオオミノカミ,スサノオノミコトなどのありえない神話時代の夢物語であったり,時の権力者による創作がかなり多く混じっていたりと,意図的に都合良く史実を為政者の側から記されているものと推測されています。もちろん,時は移って,比較的新しい中世,近代史にあっても,それを記録する書物には作者の恣意が当然入ります。ですから,後世のヒトはいろいろ推論することが出来るわけです。ここに歴史ミステリーのおもしろさがあります。

  本書は歴史好きの方にはオススメノ一冊です。  

  なお,本作者は覆面作家であり,國學院大学卒業という事実以外は明らかにされていません。1998年,本作品がデビュー作とされています。作者は,歴史や伝説ものを得意分野として,幅広い歴史の知識をもとに,既に定説とされている史実に対して奇想天外な自説を展開するのが作風と言えそうです。歴史ミステリー作家ともいわれています(了)。

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