弁護士中山の「私の一冊」

宝島、沖縄の宝とは? (2019.4.1)

真藤順丈 「宝島」 早川書房

時代は戦後、サンフランシスコ講和条約によって日本に主権が復帰した1952年から沖縄が本土復帰する1972年までの沖縄を舞台に本作品は描かれています。
沖縄の本土復帰といえば、私は小学校の頃でおぼろげに覚えていますが、時の総理は後にノーベル平和賞を受賞された佐藤栄作さんでした。佐藤栄作さんは岸信介元総理の実弟で、現在の安倍晋三総理の大叔父に当たる方ですね。すごいですね、長州閥とその閨閥。

 

世間的には、沖縄は太平洋戦争で国内で唯一戦場となったとか、たくさんの米軍基地がいまでも残っているとかはよく知られています。少しご説明します。
沖縄県の前身である琉球王国は、琉球語という独自の言語と文化を有する国家であって、その成立は1429年とされています。
東南アジアの海上交通の要所として、当初、明の支配を受けていました。それが1600年初めに王国を維持しつつも薩摩藩による武力支配を受けることとなります。
琉球王国は明治維新後の1879年、日本により廃止され、代わって沖縄県が設置されます。沖縄県になって以降、日本政府により琉球語は方言とされて、県内では国語の授業で日本の標準語が教えられ広められるようになりました。こうして沖縄は教育から文化に至るまで日本化されてしまったのです。
第2次世界大戦末期、南方戦線の補給基地として要所となっていた沖縄は、連合国軍から集中的に叩かれます。そして、日本で唯一陸上戦の舞台とされ、占領されました。この攻撃により多くの民間人、当時の沖縄県民の4分の1とされる12万人以上もの人々が戦争の犠牲となりました。
日本の敗戦後は、日本本土とともにアメリカの統治下におかれることとなります。1952年のサンフランシスコ講和条約により、日本は独立国としてようやく主権を回復しますが、沖縄は復帰することはありませんでした。沖縄は小笠原諸島などとともに引き続きアメリカの統治下にあって、これは1972年の沖縄の本土復帰まで続きました。
占領下では沖縄はアメリカ合衆国に属します。自動車は右側通行でしたし、通貨も主としてドルが使用されていました。沖縄はアメリカのアジア展開の軍事拠点として、多くの軍事基地が設置され、沖縄の本土復帰は、日米安全保障条約の下、米軍基地のほとんどが残ることを前提として、時の佐藤栄作内閣により合意実現されたものでした。つまり、基地は沖縄から撤退しないことが前提だったのです。その前提通り、未だに基地は残り問題は続いているのです。
こうして、沖縄は現在でも戦後日本の負の遺産を背負わされているままなのです。

 

さて作品です、まずは著者のご紹介をします。
真藤さんは、1977年東京生まれといいますから今年まだ42歳ですね。文教大学文学部を卒業後、映画監督を目指して映像関係の仕事をされた後、小説を書きはじめたんだそうです。何でも多作家で一度に10作品くらいをいろんなところへ投稿を重ね、落選し続けていたそうです。それが2008年と9年にかけて花咲いて「地図男」でダ・ヴィンチ文学賞の大賞を、「庵堂三兄弟の聖職」で日本ホラー小説大賞の大賞を、「東京ヴァンパイア・ファイナンス」で電撃小説大賞の銀賞を、「rank」でポプラ小説大賞の特別賞を立て続けに受賞して鮮烈にデビューしました。
本作品はデビュー10年後ということになりますが、2018年10月に第9回山田風太郎賞を受賞するとともに、翌19年1月には第160回の直木賞を受賞した作品です。

 

ストーリーです。舞台は沖縄県の中部のコザ市周辺です。戦後の沖縄では、アメリカに対する意趣返しを込めて米軍基地の倉庫などから物資を略奪することを生業としている「戦果アギヤー」(戦果を上げるもの)たちが暗躍し、庶民の人気を集めていました。これらのアギヤーの一人であるオンちゃんは、少年時代に悲惨な沖縄戦を経験して生き延びており、これら米軍から盗み出した物資、食料や医療品を惜しげもなく貧しい人たちに分け与え、沖縄の一部の人たちからは英雄視されていたのでした。
時は1952年、オンちゃんは大がかりな物資の略奪計画を立て、米軍の巨大な嘉手納基地内へ潜入します。しかし戦利品を運び出す途中に発見され、基地内でMPに追われその銃撃戦の混乱の中、行方不明となりますが、事件後オンちゃんの死は確認されませんでした。 残されたオンちゃんの仲間には、恋人だった長身美人のヤマコ、弟分のグスク、実の弟レイの3人がおり、オンちゃんの行方を懸命に探します。オンちゃんの消息はわからないまま時は経ち、ヤマコは活動家の教師に、グスクは米兵の犯罪を追う琉球警察の刑事に、レイは闇ビジネスに絡むやくざになります。
この3人を軸に1952年から沖縄復帰までの20年間を史実さながらに本作品は描いていきます。物語には実在の瀬長亀次郎、屋良朝描、ポール・キャラウェイといった人物やこれらの人らが関わった実際の事件、例えば、数々の米兵による婦女子暴行事件や米軍に住民が立ち上がったコザ暴動などを取り上げて、戦後沖縄がいかに蹂躙されてきたかを徹底的に暴いていきます。

 

果たして、オンちゃんのはどうして姿を消してしまったのか、今どこで何をしているのか、ラストに向けてこの最大のミステリーが解き明かされていきます。

 

沖縄の現状を知るためにも役に立つ、読んで絶対損はない一冊です。

 

本日、ご紹介したのは真藤順丈著 「宝島」講談社から2018年6月21日発刊、546頁1998円でした(了)。

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