弁護士中山の「私の一冊」

一億円ポンと手に入ったらどうしますか? (2018.11.14)

白石一文 「一億円のさようなら」 徳間書店

本日ご紹介する作品は冒頭のそんな、シチュエーションから物語が始まります。
  単行本の帯には「俺はもう家族も会社も信じない」
  連れ添って20年、発覚した妻の巨額隠し資産
  続々と明らかになる家族の秘密
  爆発事故に端を発する化学メーカーの社内抗争
  今を生き抜く大人たちに贈る、極上の娯楽小説
とありますがいかがでしょうか。

 

作者の白石一文さんは1958年8月福岡市生まれ、福岡高校、早稲田大学のの政治経済学部を経て出版社に勤務と典型的なエリートコースを進んでおられます。それもそのはず(?)
この方の父上は、直木賞作家の白石一郎さんだったのです。さらに一文さんには双子の弟さんがいて、弟さんは白石文郎さんでこれまた作家です。子どもは父親の背中を見て育つといいますが、お子さん二人とも作家なんてすね。
白石一文さんは、出版社勤務の傍ら小説を書きはじめ、「惑う朝」という作品で92年すばる文学賞佳作を受賞して作家デビューしました。09年には「この胸に深々と突き刺さる矢を抜け」で山本周五郎賞を受賞、10年に「ほかならぬ人」で直木賞を受賞して史上初の親子2代直木賞受賞となりました。

 

さてストーリーとは関係ありませんが、冒頭で話題にした一億円ポンと手に入ったらどうするかという問いに対して、作者の白石さん自身は「寿命が伸びている時代、長生きすると一億円では足りない。還暦を既に迎えていますが、まだまだ元気です。となるとやっぱり一億円で遊んで暮らそうとは思わない…」なんて、堅実な方なんですが作品内ではどうでしょうか。

 

物語の舞台、まずは福岡です。主人公加能鉄平52歳。一流企業に勤めていたものの理不尽なリストラに遭い、郷里の福岡の鉄平の同族が経営する化学メーカーに経営陣として勤めることになります。しかし、そこでは同族内の覇権争いがあり、鉄平は経営から外されてしまいます。妻夏代の留守中のある日、東京の弁護士から夏代への電話をたまたま鉄平が受けたことにより、妻夏代の驚きの秘密を知ることになります。なんと今から30年前、つまり夏代は鉄平と結婚する前に海外に住む叔母の相続により巨額の遺産を取得していたのでした。その遺産の総額は48億円にも上り、今も手つかずのまま弁護士に預託されているというのです。
妻を問い詰めたところ、彼女は「あれは私のお金じゃないのよ」「良いことにも悪いことにもどんなことにも使わないって決めているの」と言いいます。鉄平の頭にふと、自分がリストラにあったとき、親の医療費や子供たちの学費が必要だったとき、マンションを購入した時、あの時あのお金があったら、どうして言ってくれなかったのかという思いがよぎるのでした。しかし、夏代はどんなに家計が苦しい時でもパート勤めをしながらこのお金のことは全く秘密のままだったのでした。そんな鉄平に夏代はキャッシュ1億円を銀行から引き下ろして手渡したうえ、自由に使っていいと言います。折しも、鉄平は子供たちに男女の交際関係をめぐる意外な秘密があったこと、さらに会社でのトラブルもあり、すべてのことが信じられなくなってしまいます。そして、決断したのが会社を辞めて出奔するということでした。出奔先は何の根拠もない金沢。ここで新たな人生をスタートさせようとする鉄平でした。

 

という感じで長編のストーリーは小気味よく展開していきます。そして・・・感動というか、納得のラストです。

 

作者自身の本作品に込めた思いとして、「この2年間、僕はこの作品を面白くすることだけを考えてきた。これで直木賞を取りたかった」としています。
どうぞ大人のための極上娯楽小説を楽しんでください。2018年7月21日発刊、516頁2052円です(了)。

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